気候変動の緩和と適応

基本的な考え方

住友化学は、気候変動問題を化学企業が率先して取り組むべき社会課題として捉え、早くからその解決に向けてこれまで培ってきた技術力と知見を活かし、「リスクへの対応」と「機会の獲得」の両面から積極的に取り組んでいます。また、気候変動対応に関する情報開示についても、TCFD提言の枠組みを活用し、当社の取り組みを積極的に発信することで、社会からの信頼を獲得していきます。
さらに、近年、世界でカーボンニュートラルの実現に向けた動きが活発化する中、化学産業には、イノベーションを生み出し、事業を通じた社会全体のカーボンニュートラル達成に貢献することが強く求められています。当社は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組み方針を「カーボンニュートラル実現に向けたグランドデザイン」として策定し、2021年12月に公表しました。自社が排出する温室効果ガス(GHG)をゼロに近づける「責務」と、自社の技術・製品を通して社会全体のカーボンニュートラルを推進する「貢献」の両面で取り組みを推進していきます。「責務」においては、自社のGHG排出量を2030年までに50%削減(2013年度比)、2050年までに実質ゼロとすることを目指します。「貢献」においては、社会のGHG削減に資する製品・技術の開発および社会実装を、社外とも連携しながら推し進め、世界全体でのカーボンニュートラル達成を目指します。

カーボンニュートラル実現に向けたグランドデザイン

  • カーボンニュートラル実現に向けたグランドデザインの図

TCFD提言に沿った開示

住友化学は、2017年6月にTCFD提言が公表されると同時にその支持を表明しました。同提言の4つの開示推奨項目「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標と目標」に沿って、当社グループの気候変動問題への取り組みを紹介します。

ガバナンス

住友化学は、当社グループの経営に関わる重要事項について、広範囲かつ多様な見地から審議する会議・委員会を設置することで、業務執行や監督機能などの充実を図っています。これらの会議・委員会を通じて、気候変動問題を含むサステナビリティ推進における諸課題について、取締役会に報告しています。

経営会議 気候変動対応に関する議案や報告事項を含む、経営戦略や設備投資など重要事項の審議

サステナビリティ推進委員会

サステナビリティ推進に関する重要事項の審議
レスポンシブル・ケア委員会 気候変動対応に関する年度方針や中期計画、具体的施策の策定、実績に関する分析および評価
カーボンニュートラル戦略審議会 2050年カーボンニュートラル実現に向けたグランドデザイン立案の審議および推進

気候変動対応体制

  • 気候変動対応体制の図

エネルギーや温室効果ガス(GHG)に関する具体的な諸課題については、全社SBT(Science Based Targets)部長会議、SBT推進ワーキンググループ、全社エネルギー管理者会議、地球温暖化に係る部門連絡会、グループ会社情報交換会などで掘り下げた議論を行っています。各種会議の設置により、工場・研究所、事業部門、グループ会社について、エネルギーとGHGに関してマネジメントするとともに、必要不可欠な情報が速やかに確実に共有される体制を整えています。

会議名責任者メンバー内容
全社SBT部長会議 レスポンシブルケア部担当役員 各事業所のSBT責任者(部長) SBT目標達成に向けた諸施策に関する議論
SBT推進ワーキンググループ 生産技術部長

経営企画室、技術・研究企画部、生産技術部、レスポンシブルケア部、環境負荷低減技術開発グループ

SBT目標達成に向けた多角的な諸施策の提案
全社エネルギー管理者会議 レスポンシブルケア部長 各事業所のエネルギー・GHG担当者(課長) 各事業所での取り組みの情報共有・横展開
地球温暖化に係る部門連絡会 レスポンシブルケア部長 各部門およびコーポレートの気候変動
対応担当者(課長)
全社方針やESG課題の共有
グループ会社情報交換会 レスポンシブルケア部担当役員 グループ会社の気候変動対応担当者 グループ方針や課題の共有・ベストプラクティスの横展開

リスク管理

住友化学では、持続的な成長を実現するため、事業目的の達成を阻害する恐れのあるさまざまなリスクを早期発見し、適切に対応していくとともに、リスクが顕在化した際に迅速かつ適切に対処すべく、リスクマネジメントに関わる体制の整備・充実に努めています。
気候変動問題は、その発生の可能性と影響度の観点からの評価などを通じて当社グループの中長期的な主要リスクの一つとして位置づけられており、グループ全体のリスク管理プロセスに統合されています。

具体的な手順

国内外のグループ会社を含めた各組織で、顕在化する可能性(頻度)と顕在化した際の財務影響度の観点から個別リスクの評価を行い、社長を委員長とする内部統制委員会にてグループ全体での取り組みが必要な全社重要リスクを審議・特定の上、承認しています。個別リスクの重要度は、「個別リスクの発生可能性×当社グループ事業への財務または戦略面での影響度」により判断されます。
このプロセスを踏まえ、気候変動問題に関するリスクと機会を下表のとおり特定しています。

リスクと機会

  • リスク管理の図

戦略

住友化学は、2021年12月、2050年のカーボンニュートラル実現に向けたグランドデザインを策定しました。「責務」(当社グループのGHG排出量をゼロに近づける)と「貢献」(当社グループの製品・技術を通じて世界のGHGを削減する)の両面から気候変動の緩和への取り組みを推進します。
また、気候変動への適応に向けた取り組みとして、農業や感染症などのグローバルな環境変化に適応したソリューションの提供や、新製品の開発強化に努めています。

カーボンニュートラル実現に向けた投資

2019年度から、社会全体のカーボンニュートラルの実現に貢献すべく、個別の投資案件についてGHG排出量の増減が見込まれる場合、インターナルカーボンプライス(1トン当たり10,000円)を反映した経済性指標を算出し、投資判断を実施しています。

投資規模

カーボンニュートラル関連投資について、2013年度から2030年度にかけて、合計約2,000億円規模の投資を想定しています。

シナリオ分析

気候変動に関するシナリオ分析とは、複数のシナリオを考慮した上で、気候変動の影響や気候変動に対応する長期的な政策動向による事業環境の変化を予想し、その変化が自社の事業や経営に与える影響を検討する手法です。現在、当社では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5°Cに抑制するためにさまざまな施策がとられるシナリオ、このまま対策を講じず4°C上昇するシナリオについて、「リスク」・「機会」の側面から分析し、当社事業へのインパクトや今後とっていくアクションを検討しています。

シナリオ分析の概要

  • シナリオ分析の概要の図

指標と目標(リスク)

気候関連のリスクに対する指標として、総合化学企業として世界で初めてScience Based Targets(SBT)に認定されたGHG排出削減目標を活用しています。住友化学グループ※1の2030年のGHG排出量(Scope1+2)の削減目標は50%※2であり、SBTのWell Below 2.0°C基準の認定を取得しています。2030年までは、既存プラントの製造プロセスにおける徹底した省エネや燃料転換と、現時点で利用可能な最善の技術(Best Available Technology:BAT)の活用による目標達成を目指します。
一方、2050年のネットゼロに向けては、既存技術のみでの対応は難しく、カーボンネガティブやCCUS※3など、革新的な技術が必要になります。この開発と早期の実装を目指し、検討を進めていきます。

  1. 当社および国内外の連結子会社を対象
  2. 2013年度比
  3. 工場などから排出されたCO2の回収・有効利用・貯留( CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)

GHG排出量の推移と削減目標(Scope1+2)

  • GHG排出量の推移と削減目標(Scope1+2)の図

2022年度 エネルギー消費量および温室効果ガス排出量

2017年度実績より温室効果ガス排出量をGHGプロトコルに基づいて(「環境・社会データ算定基準」参照)して算定し、連結売上高99.8%以内の主要な連結グループ会社について対象範囲を拡大し算出しています。

(千トン-CO2e)温室効果ガス排出量
 住友化学および
国内グループ会社
海外グループ会社合計
Scope1排出量 5,231 442 5,673
Scope2排出量 187 718 905
合計 5,418 1,161 6,578

(注)バイオマス由来排出量は50千トン-CO2e

エネルギー消費量(GHGプロトコル基準)

  • エネルギー消費量

(注)

  • GHGプロトコル基準に基づいて温室効果ガス排出量を開示したことに伴って、2017年度よりエネルギー消費量には、従来算定に含めていなかった住友化学グループが外部に販売した電気や蒸気を生産するためのエネルギー消費量を含めている。また、2017年度より住友化学の、2018年度より住友化学グループの非生産拠点のエネルギー消費量を含んでいる

温室効果ガス排出量(GHGプロトコル基準)

  • 温室効果ガス排出量

(注)

  • GHGプロトコル基準では、従来算定に含めていなかった住友化学グループが外部に販売したエネルギー起源のCO2排出量、住友化学の非生産拠点のエネルギー起源CO2排出量、「地球温暖化対策の推進に関する法律」算定対象外の非エネルギー起源CO2排出量を含んでいる。また、2017年度より住友化学の、2018年度より住友化学グループの非生産拠点のエネルギー起源CO2排出量を含んでいる

エネルギー消費原単位指数(GHGプロトコル基準)

  • エネルギー消費原単位指数

(注)

  • 売上当たりのエネルギー消費量(GJ)を指数化
  • 中期経営計画の3年間に3%以上改善(2022-2024年度)を目標としているため、2021年度を100として指数化

GHG排出量の削減目標(Scope3)

  • 「 Science Based Targets(SBT)イニシアチブ」に認定されたGHG排出削減目標(Scope3)

Scope3 温室効果ガス排出量

(千トン-CO2e/年)
カテゴリ排出量
2019年度2020年度2021年度2022年度
1. 購入した製品・サービス 2,276 2,346 2,441 2,261
2. 資本財 151 164 141 146
3. Scope1・2に含まれない燃料および
エネルギー関連活動
581 585 559 550
4. 輸送・配送(上流) 60 53 55 53
5. 事業から出る廃棄物 35 41 58 37
6. 出張 10 2 3 7
7. 雇用者の通勤 11 11 9 9
8. リース資産(上流) <1 <1 <1 <1
9. 輸送、配送(下流) <1 <1 <1 <1
10. 販売した製品の加工 ̶ ̶ ̶ ̶
11. 販売した製品の使用 40 42 45 34
12. 販売した製品の廃棄 879 806 788 772
13. リース資産(下流) ̶ ̶ ̶ ̶
14. フランチャイズ ̶ ̶ ̶ ̶
15. 投資 ̶ ̶ ̶ ̶

(注)

  • Scope3とは、サプライチェーンでの企業活動に伴う温室効果ガス排出量をカテゴリ別に計算し、合算したもの
  • 住友化学および国内上場グループ会社(住友ファーマ株式会社、広栄化学株式会社、田岡化学工業株式会社、株式会社田中化学研究所)について算出している
  • カテゴリ4は田岡化学工業株式会社を含まず、日本エイアンドエル株式会社を含む
  • カテゴリ11はN2OをCO2に換算した値
  • Scope3 温室効果ガス排出量の図

指標と目標(機会)

気候関連の機会に対する指標として、Sumika Sustainable Solutions(SSS)を活用しています。SSSとは、気候変動対応、環境負荷低減、資源有効利用の分野で貢献するグループの製品・技術を自社で認定し、その開発や普及を促進する取り組みです。
2022年度の認定製品の売上収益は6,828億円となり、2030年度の目標である1兆2,000億円に向けて、着実に進捗しています。

Sumika Sustainable Solutions 売上収益の目標

  • Sumika Sustainable Solutions認定製品 売上収益の新目標

2022年度 各認定分野における製品・技術数の割合

  • 2022年度 各認定分野における製品・技術の環境貢献実績

Science Based Contributions(SBC) ~製品・技術を通じたGHG削減貢献量~

  • Science Based Contributions(SBC) ~製品・技術を通じたGHG削減貢献量~

「責務」に対する具体的な取り組み

  • 化学工場の主なGHG排出ソース
  • 各事業所におけるGHG排出削減対応の取り組み
  • LED照明導入状況
  • 物流における取り組み

「貢献」に対する具体的な取り組み

  • 炭素資源循環システムの構築
  • カーボンネガティブへの挑戦
  • メタンガスへの対応
  • 外部連携の取り組み
  • 塩酸酸化プロセス技術の開発
  • 日化協レスポンシブ・ケア賞

今後に向けて

住友化学は、2021年12月に公表した2050年カーボンニュートラルの実現に向けたグランドデザインに沿って、総合化学企業として培ってきた技術力と知見を生かし、グループのGHG排出量をゼロに近づける「責務」と、グループの製品・技術を通じて社会全体のカーボンニュートラルを推進していく「貢献」の取り組みを推進していきます。
今後も、「事業活動を通じて人類社会の発展に貢献する」という経営理念のもとで、引き続きグループを挙げて、気候変動問題解決、カーボンニュートラルの実現に向けて、積極的に取り組んでいきます。