基本的な考え方
住友化学は、「安全をすべてに優先させる」という基本理念のもと、基本理念に基づく指針や「私の『基本理念』実行5原則」を設定し、全社従業員および当社でともに働く協力会社を含む全ての関係者が一体となって、「事故・災害ゼロ」を目標として安全活動を展開しています。さらに、火災・爆発・有害物質の漏えいなどの保安事故の未然防止を図るとともに、大規模地震などの自然災害発生時の被害を最小に抑え、従業員と地域社会の安全・安心を確保するために、開発、製造、物流、使用、廃棄の全ライフサイクルに対するプロセスリスク評価を徹底的に実施して、リスクに基づいた適切な安全対策を講じています。
当社では、労働安全衛生管理システム※1の認証を取得し、リスクアセスメントに基づく改善に至るまでの一連の取り組みをPDCAサイクルで実施しています。また、その安全に関する取り組みおよび実績は、年度末に社長を委員長とするレスポンシブル・ケア委員会でレビューを行い、来期サイクルへと継続的につなげることで、災害を未然に防止する安全衛生活動を強化しています。
※1:当社は、国際規格である「ISO45001」や、OHSAS18001と同様のJISHA方式の「OSHMS」を導入・運用することで、労働安全衛生・健康の観点からリスクマネジメントを行い、健全な企業経営を行っている
基本理念:安全をすべてに優先させる
基本理念の根拠
- 安全衛生はライン管理が基本である
- 安全衛生は一人ひとりに遂行責任がある
- 安全衛生は協力会社と一体である
私の「基本理念」実行5原則
- あらゆる業務において安全衛生の確保を最優先します
- 安全衛生上の問題を現地で摘出し改善します
- ルールおよび指示を遵守します
- 勤務時間の内外を問わず24時間安全人としての行動に徹します
- 協力会社を含む全ての関係者と協力して安全衛生を確保します
マネジメント体制
社長を最高責任者、レスポンシブルケア部担当役員を責任者とし、レスポンシブルケア部 保安・安全グループが当社全般の安全衛生・保安防災に関する事項を掌理するとともに、グループ会社の安全衛生・保安防災活動の支援を行っています。安全衛生・保安管理状況の把握と改善施策の検討などを行うため、各事業所およびグループ会社の安全衛生・保安防災担当部門との会合や情報交換を定期的に実施するなど、関係部署と連携して安全衛生・保安防災活動レベルの維持・向上を推進しています。
また、各事業所において、労使代表者を構成メンバーとする安全衛生委員会を毎月開催し、事業所の全ての従業員を対象とした安全衛生や健康リスクに関わる事項について調査・審議するとともに、具体施策を労使一体となり推進しています。
目標・実績
労働安全衛生
住友化学グループ※2では、「グループ休業災害度数率※3 0.1未満」の目標に対して、2020年度の度数率は0.45(休業災害件数:39件)であり、目標未達となりました。また、「グループ重大災害※4件数ゼロ」の目標に対して、2020年度は住友化学構内の協力会社で重大災害が1件発生し(前年度比同数)、目標未達となりました。住友化学単体では、2020年度の度数率は0.07(休業災害件数:1件)、強度率は0.001、協力会社・その他では、度数率は0.52(休業災害件数:5件)、強度率は0.43となりました。
休業災害度数率
休業災害発生状況(住友化学グループ※2)
2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | |
---|---|---|---|---|---|
件数 | 9 | 17 | 35 | 27 | 39 |
保安防災
住友化学グループ※5では「重⼤保安事故※6の発⽣件数=ゼロ」の目標に対して、2020年度は重⼤保安事故は発⽣せず、目標を達成しました(2015年度以降、6年連続で重⼤保安事故発⽣ゼロ)。これは、保安管理レベルの維持・向上や、現場レベルでの⽇頃の地道な活動などが成果となって表れているものと考えています。
なお、重⼤保安事故には⾄らない軽微な保安事故は、2020年度には1件発⽣しました。この軽微保安事故の原因や教訓は当社グループ全体に速やかに展開しており、さらなる保安管理レベルの向上を推進しています。
■ 重大保安事故発生状況(住友化学グループ※5)
2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | |
---|---|---|---|---|---|
件数 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
※2:労働安全衛生におけるグループの定義
~2019年度: 住友化学(協力会社、その他を含む)および国内外連結経営会社
2020年度~: 住友化学(協力会社、その他を含む)および国内外連結子会社
※3: 度数率の対象範囲:
住友化学(協力会社、その他を含む)および連結子会社(ただし、海外連結子会社の内、1社を除く)社員。社員には嘱託、パート・アルバイト、派遣社員を含む
労働時間数の算出:
連結子会社社員の労働時間数については、社員数に1,928時間(住友化学の年間標準労働時間)を乗じた推定値を使用(住友化学および協力会社の労働時間数は実績値を使用)
※4: 重大災害の定義:死亡災害および休業災害の中で重篤なもの(失明、上肢・下肢の喪失など)
※5: 保安防災におけるグループの定義:
住友化学(協力会社、その他を含む)および国内外連結経営会社
※6: 重大保安事故:以下のいずれかの事態が発生した保安事故を指す
• 地域住民の皆さまに通院や加療以上の被害を発生させる事故
• 構内従業員に休業以上の被害を発⽣させる事故
• 設備被害額などが1千万円を超える事故
取り組み事例
労働安全衛生
個々の災害原因を徹底究明するとともに、安全基本ルールの徹底、危険予知トレーニング、災害情報共有などを通じて、災害防止に取り組んでいます。また、工場に入構する工事協力会社にも安全の基本理念やグラウンドルールの書かれたポケットサイズのしおりや入構証を配布・周知し、「安全をすべてに優先させる」取り組みを進めています。
住友化学グループの安全基本ルール(グラウンドルール)の徹底
災害発生原因の傾向に鑑み、以下のグラウンドルールを定め、安全行動の定着に努めています。
- 作業前に一呼吸置く
- 不安全行動に対して相互注意する
- 機器可動部には手を出さない
危険予知能力の向上
危険予知能力(危険を察知し回避する能力)を向上させるため、イラストを用いた職場討論や体感訓練などを行っています。
災害情報の共有と活用
住友化学グループの全災害情報を共有し、安全教育や現場総点検などに活用しています。災害が発生した事業所では、事業所幹部や安全担当者が参加した現場査察を通じ、徹底した原因究明と再発防止策の検討を行っています。
安全表彰
休業無災害記録を達成した事業所は安全表彰の対象となります。さらに他の模範となる安全衛生活動を実施し、かつ良好な安全成績を達成した職場に対しては社長安全職場表彰制度があり、2020年度は8職場が受賞しました。
社報および安全衛生スローガン・ポスターによる安全啓発
2013年度から「レベルUP! 安全力」(2019年度からは「マンガで学ぶ! 安全文化のススメ」)と題して、作業場面ごとに起こりやすい災害事例と安全のためのポイントを社報に掲載しています。また、安全衛生スローガンと安全衛生ポスターを募集し、優秀作品を各職場に掲示するなど、安全の啓発を行っています。
委託作業、工事作業における重大災害防止
当社では、協力会社を含む全ての関係者の安全衛生を確保するため、「2019年度~2021年度レスポンシブル・ケア中期計画」および「2021年度レスポンシブル・ケア年度方針」の重点実施項目の一つに、「就業構造の変化に対応し、労働者の安全と健康を確保する安全基盤の確立に取り組み、委託作業、工事作業における重大災害防止対策を推進する」を掲げ、リスクアセスメントの徹底など、全社で活動を展開しています。
保安防災
リスク管理の取り組み
住友化学では、新規プロセスの研究開発から工業化段階を経てプラントの設計・建設、運転・維持、さらには廃棄に至るまでの各段階でプロセス安全、化学品(原料・製品)安全、労働安全衛生などに関するリスク管理を実施しています。これらのリスク管理に必要な項目や手順は、会社基準である「開発工業化規則」、「安全管理要領」、「化学品安全管理規則」などで具体的に定めています。また、主要な連結経営会社にもこの仕組みを展開し、グループ全体の安全管理レベルの向上を図っています。
プロセスのリスク管理(3つのルート)
- 新規プロセスの評価
研究開発から工業化の各ステップで「プロセス安全検討会議(レベル1~5)」を開催しています。この会議にはプロセス安全や化学品安全などに関するリスクの洗い出し、リスク評価結果および安全対策が適切であることを確認するための技術監査的な役割があり、十分な安全性が確認されなければ次のステップに進めない仕組みとしています。さらに運転開始前には、例えば作業環境(温度、騒音、振動など)が問題ないか、安全表示が適切になされているか、必要な作業保護具や緊急時の資機材が十分に確保されているか、手順書の整備・教育が十分か、といった労働安全衛生に関するリスクへの対応状況を確認するための運転前の安全審査を行っています。
- 変更の管理
プラントの設備改造や運転条件変更などの際には、変更に伴ってプロセス安全、化学品安全、労働安全衛生などに関する新たなリスクが発生しないか確認し、必要に応じて追加安全対策を検討するために、必ず変更前に安全性評価を実施しています。
- 既存プロセスの定期的レビュー
プロセスに変更がない場合でも、プラントの長期使用による影響有無の確認や、最新の技術情報の反映などを目的として、定期的なプロセス危険性評価を原則として5年を越えない周期で実施しています。また、毎年、各職場を対象として実施されている内部監査の中で、安全管理システムが適切に運用されているかについても確認しています。
大規模自然災害への備え
住友化学では、2004年に「地震対策の基本方針」を定め、リスクの高い設備の耐震改修を自主的に進めてきました。さらに最近の「既存設備に対する耐震性向上」の行政指導に基づき、重要度の高い高圧ガス設備に対する耐震改修計画を作成し、計画に従って耐震改修工事や建て替え工事を実施しています。また、これらの工事を行うまでは、設備内の高圧ガスの保有量を減らして重量を軽減することで耐震基準をクリアする、圧力を下げて工場敷地外に影響を及ぼさないようにするなどの、保安確保のためのリスク低減対策を実施しています。
また、近年の台風・豪雨といった自然災害の激甚化傾向を踏まえ、現状の安全対策で十分か常に見直しを行い、必要に応じたハード・ソフト両面での対策を実施しています。なお、住友化学の工場では、台風・豪雨によって工場内が浸水した場合でも、例えばプラントの冷却用電源が喪失したり、倉庫内の禁水性物質が水と接触したりすることで大規模な火災・爆発を起こして周辺住民の皆さまにご迷惑を掛ける、といったリスクは小さいことを確認しています。
激甚化するゲリラ豪雨への取り組み(大阪工場)
激甚化するゲリラ豪雨による浸水被害を防ぐため、大阪市の「集中豪雨被害低減対策」などに合わせ構内の雨水排水能力を増強してきました。さらに、生産の基幹となる重要設備の一部(変電設備など)を嵩上げするなど、今後も自然災害に対応すべく防災・減災諸施策を進め、工場のアジリティとレジリエンスを継続して強化していきます。
労働安全衛生・保安防災教育・訓練
住友化学では、従業員のプロセス安全確保のための知識・スキル習得を支援するために、各層の業務役割を踏まえたさまざまな安全教育を実施しています。また国内グループ会社が、各社のニーズに対応した安全教育を実施できるよう支援しています。
2020年度主な安全教育(全社教育)
名称 | 形態 | 目的 | バウンダリー | 受講者数 |
---|---|---|---|---|
社内安全管理 システム教育 |
eラーニング | 安全管理の基本ルール(会社基準「安全管理要領」)の理解・徹底 | 住友化学(全事業所) | 623 |
安全防災 理論教育 |
集合研修 | 火災・爆発・反応危険・静電気などの保安防災関連の基礎知識の習得 | 住友化学(工場・研究所) | 102 |
国内グループ会社 | 5 | |||
火災・爆発 体感研修 |
集合研修および 自己学習 |
火災・爆発の体験実習を通じ、自職場の潜在危険性の発見およびトラブルの未然防止のための知識の習得 | 住友化学(工場・研究所) | 99 |
国内グループ会社 | 22 | |||
全社保安教育 | eラーニング | 各年度の最新のトピックスを題材とした研修 (プロセス保安技術とHAZOPの運用に関する教育、および静電気安全教育を実施) |
住友化学(工場・研究所) | 846 |
住友化学(工場・研究所)内の グループ会社・協力会社 |
47 | |||
HAZOP※7研修 | eラーニング | HAZOPの基礎を学び、HAZOPを実施できる人材の育成 | 住友化学(工場・研究所) | 25 |
国内グループ会社 | 0 | |||
セーフティ |
集合研修および |
プロセスの危険源の抽出、適切なリスク評価の遂行、安全対策の立案と効果的なリスク低減について、中心的な役割を担う人材の育成 |
住友化学(工場) | 15 |
※7:HAZOP:化学プロセスの潜在危険性をもれなく洗い出し、それらの影響・結果を評価し、必要な安全対策を検討することを目的として開発されたプロセス危険性評価手法
住友化学およびグループ会社の各事業所では、高所作業、酸素欠乏危険場所での作業、高温・低温環境下での作業、騒音下での作業、特定化学物質や有機溶剤の取り扱い作業などの労働安全衛生上の配慮を要する作業従事者に対して、作業内容や取り扱い物質、保護具の着用などについての教育を必要な時期に実施するとともに、特殊健康診断や作業環境測定、産業医や衛生管理者などによる職場パトロールを定期的に実施し、作業環境の整備・維持に努めています。
住友化学の事業所における安全教育・訓練の例
安全教育例 |
新入社員・新任監督者・新任管理者安全衛生研修、法規説明会(労働安全衛生法、高圧ガス保安法、消防法など)、保安管理システム教育、安全衛生講習会(保護具など)、危険体感研修(被液、挟まれ、落下体感など。VR教材含む)、危険予知トレーニング、災害解析手法研修(なぜなに分析など)、オフィスでの安全衛生教育、交通安全教育など |
---|---|
安全訓練例 |
石油コンビナート総合防災訓練(自治体、コンビナート地区各社)、地震・津波避難訓練、専任消防隊と職場消防隊との合同消防訓練、消火器・消火栓操法訓練、救急法訓練(AEDなど)、夜間・休日の緊急連絡訓練など |
また、事業所内で作業される協力会社の皆さまに対し、入構者安全教育(安全基本方針、構内基本ルールなど)、工事監督者研修(監督者の責務、リスクアセスメントなど)、危険体感研修なども実施しています。
「産業保安に関する行動計画」への取り組み
石油化学工業協会では、業界団体が一丸となって、より一層の保安・安全を推進するための「産業保安に関する行動計画」を2013年7月に策定しました。この行動計画に基づく住友化学の取り組みを紹介します。
- 企業経営者の産業保安に対するコミットメント
- 中期経営計画の重要経営課題の一つに「コンプライアンスの徹底、安全・安定操業の確立と継続」を掲げています。
-
毎年7月1日から開催される「全国安全週間」に合わせ、社長安全週間メッセージを全従業員および国内外のグルー プ会社に発信しています。
- 2012年度から「社長職場安全表彰制度」を継続実施しています。
- 産業保安に関する目標設定
- 「休業災害ゼロ」、「重大保安事故ゼロ」などの目標を設定し、目標達成に向けたさまざまな取り組みを実施しています。
- 産業保安のための施策の実施計画の策定
- 非定常運転時に対しても徹底的に保安リスクを抽出する活動を進めています。
- 目標の達成状況や施策の実施状況についての調査および評価
- 「レスポンシブル・ケア委員会」において、目標達成状況や施策の実施状況をレビューし、次年度の計画に反映させています。
- 自主保安活動の促進に向けた取り組み
- 住友化学グループとして遵守する基本事項に「安全に関するグラウンドルール」を制定し、当社グループの安全文化の向上を図っています。
- 全社で一斉に安全を考える日として、月1回「全社安全の日」を設定しています。
- 学識経験者によるセミナーや、保安力向上センターによる保安力評価を実施しています。
物流における取り組み
住友化学は、当社およびグループ会社の物流協力会社(84社、116拠点)と「物流の安全をすべてに優先させる」を基本理念とした物流パートナーシップ協議会を組織運営しています。当協議会には工場地区ごとの部会や、全国規模の中継地関連業務(輸送・保管など)および海上輸送関連業務それぞれに部会があり、その中で、物流部門独自のレスポンシブル・ケア活動を展開しています。
2020年度は、安全衛生面では休業災害が1件発生しました。幸い重大災害につながる可能性のないものでしたが、今後リスクの洗い直しや安全衛生管理レベルのさらなる向上を図っていきます。
また、保安防災面では、陸上や海上の危険性物質輸送に関する安全管理規則など、安全を確保する輸送基準を物流協力会社へ提示し、ルール遵守を徹底しています。万が一、事故が発生した緊急時においても、物流協力会社と連携して発災地にいち早く駆けつけ処置する体制も構築しています。なお、2019年7月から一般財団法人海上災害防止センターの危険物質事故対応サービスに加入し、体制を強化しました。
物流部門管轄の休業災害
2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | |
---|---|---|---|---|---|
件数 | 0 | 0 | 1 | 5 | 1 |
(注)住友化学の事業所構内で発生した物流関連の休業災害および主要な物流協力会社が事業所構外で発生させた休業災害
今後に向けて
安全文化の深化活動は根付いてきているものの、死亡災害を含む重大災害の撲滅には至っていません。重大災害を撲滅するため、各職場において安全文化レベルを測定し常に改善を図ることで「安全が当たり前となる文化」をつくり上げていきます。また、国際標準に準拠した安全衛生活動(労働安全マネジメントシステムや機械安全など)を推進し、多様で柔軟な働き方を選択する社会に対応していきます。
また、IoTなどの最先端技術や高度なリスクアセスメント手法の導入による安全保安管理技術の向上、高度な保安人材の育成、設備管理および施工管理の徹底など、安全基盤をさらに強化するとともに、自然災害の激甚化やテロなどの新たな脅威への対応を強化します。