スミカスーパー LCPの機械的特性

引張強度

スミカスーパーLCPの引張試験における応力-ひずみ曲線(以下S-S曲線)を示します。応力があるレベルに達するまではひずみと応力が比例関係にあります。プラスチックの強度設計を行う上では、応力とひずみが比例関係にならない部分がある点について考慮する必要があります。
また、図3-2-2、図3-2-3にE6008とE5008の引張強さの温度依存性を示します。引張特性は環境温度により変化しますが、スミカスーパーLCPは広い温度範囲で高い引張強さを維持しています。

図3-2-1 スミカスーパーLCPのS-Sカーブ

図3-2-1 スミカスーパーLCPのS-Sカーブ

図3-2-2 E6008の引張強さの温度依存性

図3-2-2 E6008の引張強さの温度依存性

図3-2-3 E5008の引張強さの温度依存性

図3-2-3 E5008の引張強さの温度依存性

成形品肉厚依存性

スミカスーパーLCPは溶融時のせん断力により容易に分子が配向します。成形品が薄肉であるほど配向の強いスキン層の割合が高くなるため、単位断面積当たりの強度は高くなります。表3-2-1にスミカスーパーLCPの薄肉引張特性を、図3-2-4、表3-2-2に引張強度と曲げ強度の厚み依存性を示します。

表3-2-1 スミカスーパーLCPの薄肉引張強度

項目 厚み(mm) E5008L E5008 E4008 E6008 E6006L E6007LHF E6807LHF SV6808THF SZ6505HF
引張強度(MPa) 0.5 151 161 178 199 215 153 144 130 140
0.8 151 139 171 184 194 141 139 123 137
1.2 135 119 158 164 172 141 127 116 144
1.6 132 113 131 149 160 144 126 114 144
引張伸び率(%) 0.5 2.4 2.9 3.0 3.0 2.4 2.7 2.8 2.1 4.8
0.8 2.7 3.1 3.7 3.5 2.8 3.6 4.1 2.8 5.7
1.2 2.8 3.3 4.1 4.0 3.4 3.8 4.1 3.3 6.2
1.6 3.1 3.5 4.5 4.2 3.7 4.2 4.3 3.6 6.8
引張弾性率(GPa) 0.5 18.6 17.6 19.5 18.6 21.7 17.7 16.9 15.8 14.9
0.8 16.1 15.4 17.1 16.5 15.8 15.2 14.8 12.0 13.2
1.2 14.1 12.4 13.4 12.4 12.2 11.9 11.1 10.5 11.8
1.6 11.6 11.0 10.8 11.0 9.8 11.0 10.0 9.5 10.6
成形温度(℃) 400 380 350

図3-2-4 スミカスーパーLCPの引張強度の厚み依存性

図3-2-4 スミカスーパーLCPの引張強度の厚み依存性

図3-2-5 スキン/コア図

図3-2-5 スキン/コア図

表3-2-2 スミカスーパーLCPの曲げ強度の厚み依存性

項目 厚み(mm) E6007LHF E6807LHF E6808LHF E6808UHF E6808GHF E6810KHF SV6808THF SZ6505HF SZ6506HF
曲げ強度(MPa) 0.5 234 198 220 131 184 174 160 155 153
0.8 234 202 216 126 177 174 163 155 155
1.2 224 198 201 121 168 165 160 157 162
1.6 217 188 194 124 170 159 157 169 173
曲げ弾性率(GPa) 0.5 25.4 20.5 24.8 16.5 20.3 21.5 12.9 18.4 19.2
0.8 21.0 16.6 18.7 12.6 16.7 17.7 11.3 15.7 16.0
1.2 17.6 14.4 15.4 9.6 13.1 14.2 10.4 12.6 13.7
1.6 14.8 11.7 12.9 8.7 11.7 12.4 8.9 12.0 13.2

曲げ弾性率の温度依存性

スミカスーパーLCPの弾性率は、結晶性や非晶性ポリマーのようにガラス転移点における極端な低下はみられず、温度上昇とともに徐々に低下する傾向を示します。各シリーズとも250℃においても実用的な曲げ弾性率を有し、耐熱エンプラの中でも高いランクに位置付けられます。また、成形後の製品に熱処理を施すと、スキン構造がより強固なものとなり、弾性率は向上する傾向にあります。弾性率以外に強度、熱変形温度やクリープ特性についても同様の傾向がみられます。

図3-2-6 スミカスーパーLCPの曲げ弾性率の温度依存性

図3-2-6 スミカスーパーLCPの曲げ弾性率の温度依存性

物性の異方性

スミカスーパーLCPの異方性を下表に示します。スミカスーパーLCPは流動する際に流動方向に強く配向するため、流動方向(MD)と直角方向(TD)において、強度が大きく異なります。射出成形に際しては、ゲート位置等金型設計では十分留意してください。

表3-2-3 スミカスーパーLCPの物性の異方性

項目 単位 測定方向 E5008L E5008 E4008 E6008 E6006L E6007LHF
成形収縮率 % MD 0.05 0.06 0.10 0.18 0.19 0.20
% TD 0.81 1.25 1.32 1.16 0.74 0.60
曲げ強度 MPa MD 137 130 138 136 156 158
MPa TD 58 56 57 61 92 95
曲げ弾性率 GPa MD 13.4 12.6 12.7 12.2 11.4 14.0
GPa TD 3.7 3.3 3.0 4.4 4.7 5.1
成形収縮率試験片: 64×64×3mm (1mmフィルムゲート)
曲げ物性試験片: 13w×3t×64Lmm
支点間距離: 40mm
射出成形機: 日精樹脂工業 PS40E5ASE

ウエルド強度

一般にLCPは固化速度が速く異方性も大きいため、ウエルド強度が低くなる傾向があります。ウエルド部の機械特性は密着不良により強度が低下しやすいため、製品設計や金型の製作をする上では十分な配慮が必要です。
図3-2-7にスミカスーパーLCPのウエルド曲げ強度を示します。LCP樹脂が開口部の位置で合流し、再度流動するウエルド1と、開口部の位置で合流したそのまま流動が停止する流動末端のウエルド2の2種類について評価しています。

図3-2-7 スミカスーパーLCPのウエルド曲げ強度(3mm厚み)

図3-2-7 スミカスーパーLCPのウエルド曲げ強度(3mm厚み)

図3-2-8 スミカスーパーLCPのウエルド評価用試験片

図3-2-8 スミカスーパーLCPのウエルド評価用試験片

図3-2-9 スミカスーパーLCPのウエルド曲げ強度(0.5mm厚み)

図3-2-9 スミカスーパーLCPのウエルド曲げ強度(0.5mm厚み)

クリープ特性

実用部品の強度計算に当たっては、クリープ特性と温度による特性変化を基に、使用条件下での成形品の寸法変化および強度変化を考慮する必要があります。図3-2-10にガラス繊維強化グレードであるE6006Lの150℃における曲げクリープ特性を示します。スミカスーパーLCPは、結晶性のPPS(ガラス繊維40%強化グレード)やスミカエクセルPES(ガラス繊維30%強化グレード)と比較し、優れたクリープ特性を有していることがわかります。

図3-2-10 スミカスーパーLCPのクリープ特性

図3-2-10 スミカスーパーLCPのクリープ特性

疲労特性

長時間変動する荷重下にある材料は疲労破壊を起こします。スミカスーパーLCPのE6006Lの引張疲労試験による応力 - 寿命曲線を示します。

図3-2-11 スミカスーパーLCPの疲労特性

図3-2-11 スミカスーパーLCPの疲労特性
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