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室温にて強相関電子材料の電流方向依存の抵抗変化を発見
~キラル磁性体における非相反電荷輸送の包括的理解~

2025年07月07日

理化学研究所
早稲田大学
科学技術振興機構(JST)
住友化学株式会社

概要

理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター強相関物質研究グループの中村大輔上級研究員、田口康二郎グループディレクター(最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業本部強相関材料環境デバイス研究チーム副チームディレクター)、強相関理論研究グループの永長直人グループディレクター(最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業本部基礎量子科学研究プログラムプログラムディレクター)、早稲田大学理工学術院先進理工学部の望月維人教授、リー・ムークン講師らの共同研究グループは、キラル構造(※1)を持つ磁性体の抵抗が室温で電流方向に依存して変化することを発見しました。
本研究成果は、スピンと電子の相関を利用した情報制御に向けた基盤技術の発展に貢献すると期待されます。
共同研究グループは、電流と電圧が単純な比例関係にない「非線形電荷輸送現象」の中でも整流効果をもたらす「非相反(※2)電荷輸送」が期待される、キラル構造を持つ磁性体「Co8Zn9Mn3(コバルト・亜鉛・マンガンの合金)」に着目し、室温を含む幅広い温度領域で非相反電荷輸送現象を観測することに成功しました。さらに、異なる温度・磁場の条件下で生じた、2種類の非相反電荷輸送現象を分離することにも成功しました。この二つの現象を理論解析することで、キラル構造を持つ磁性体における非相反電荷輸送現象は、二つのスピン(電子の「自転」)間の相対角度の大きさに依存するスピン散乱と、円錐状のスピン配列に伴う電子の非対称なエネルギー状態という2種類の要因によって発現していることが明らかになりました。

本研究は、科学雑誌『Science Advances』オンライン版(7月4日付:日本時間7月5日)に掲載されます。

  • Co8Zn9Mn3における非相反電荷輸送現象に寄与する2成分の温度依存性

※1 キラル構造、空間反転対称性
キラル構造とは、鏡に映したときに互いに鏡像関係にあるが元の形と重ね合わせることができないこと。例として右手と左手の関係が挙げられる。一方で、空間反転対称性とは、原点を中心に全ての座標軸に対して物体を反転しても、元の物体と同じになる性質のこと。キラル構造であることと空間反転対称性を持たないことの意味は類似しているが、厳密には、空間反転対称性を持たないものが全てキラル構造であるとは限らない。
※2 非相反
電気や光といった信号の伝わり方が方向によって変わるという意味で、例えば一方向にしか電気を通さないダイオードや、内側からのみ外が見えるミラーガラスのような性質を指す。

研究支援

本研究は、理研産業界との融合的連携研究制度(住友化学)、理研TRIPイニシアティブにより実施し、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)「Beyond Skyrmionを目指す新しいトポロジカル磁性科学の創出(研究代表者:于秀珍、主たる共同研究者:田口康二郎、JPMJCR20T1)」「ナノスピン構造を用いた電子量子位相制御(研究代表者:永長直人、JPMJCR1874)」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(A)「スキルミオンが持つ新しい物質機能・物性現象の開拓とスキルミオニクスの創出(研究代表者:望月維人、25H00611)」「量子非線形応答の理論的研究(研究代表者:永長直人、24H00197)」、同基盤研究(B)「マヨラナ準粒子・伝導電子結合系におけるエキゾティック超伝導の理論(研究分担者:永長直人、24K00583)」「対称性と乱れに基づく新しいトポロジカル磁性と創発機能の開拓(研究代表者:軽部皓介、23K26534)」、同学術変革領域研究(A)「キメラ準粒子の理論(研究分担者:永長直人、望月維人、24H02231)」、早稲田大学特定課題研究助成費「トポロジカル磁性の生成・駆動・スイッチング現象およびその手法・技術の理論(研究代表者:望月維人、2025C-133)」、Reservoir computing with topological magnetic systems (研究代表者:Mu-Kun Lee、2025C-134)、RIKEN TRIP Initiative「基礎量子科学研究プログラム(プログラムディレクター:永長直人)」「科学研究基盤モデル開発プログラム(参画研究者:田口康二郎)」「多電子集団(参画研究者:田口康二郎)」、理研産業界との融合的連携研究制度(住友化学)「強相関材料を用いた環境配慮デバイスの開発(研究分担者:田口康二郎)」の助成を受けて行われました。

機関窓口

  • 理化学研究所 広報部 報道担当

    Tel: 050-3495-0247
    Email: ex-press@ml.riken.jp

  • 早稲田大学 広報室

    Tel: 03-3202-5454
    Email: koho@list.waseda.jp

  • 科学技術振興機構 広報課

    Tel: 03-5214-8404
    Email: jstkoho@jst.go.jp

  • 住友化学株式会社 コーポレートコミュニケーション部

    Email: sumika-kouhou@ya.sumitomo-chem.co.jp

JST事業に関すること

  • 科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ 安藤裕輔

    Tel: 03-3512-3531
    Email: crest@jst.go.jp