ESG(非財務情報)

ガバナンス対談

代表取締役社長 社長執行役員 十倉 雅和、伊藤 邦雄氏

住友化学は今、スペシャリティケミカル分野の成長に加えてバルクケミカル分野も全地域において安定操業を確立し、「持続的成長を続けるレジリエントな企業」への道を着実に歩んでいます。その基盤をつくった前中期経営計画からの戦略、そしてコーポレート・ガバナンスの変遷を、当社の取締役として見続けてきた伊藤邦雄氏が、当社代表の十倉と語り合いました。

  • 伊藤氏は2012年に就任して以来6年間にわたり当社の社外取締役を務めていただきましたが、2018年6月をもって退任となりました。

持続的成長と企業価値向上を支えるガバナンスの進化

Management by Phase

不退転の決意で財務体質の改善に取り組んだ前中期経営計画

伊藤 住友化学の中期経営計画は「Management by Phase」、つまり、この期間に何を成し遂げたいかが非常に明確です。前中期経営計画(2013~2015年度)は、有利子負債を圧縮してフリー・キャッシュ・フローを生み出すのだという決意が、私から見ても非常にわかりやすかった。目標達成に向けて、さまざまな意思決定がなされていきましたね。

十倉 当時、私たちには相当な危機意識がありました。いずれも大型投資を必要とする3つの事業戦略― ①石油化学事業の抜本的競争力の強化を期したラービグ計画の推進 ②ライフサイエンス事業でクリティカルマスを確保するための大日本住友製薬株式会社発足と大型買収 ③将来の核となる新規事業育成としての情報電子化学部門の新設・拡大― をやりきった直後にリーマンショックが発生し、財務体質が一気に悪化していたのです。今ここで経営基盤を強固にできなければ、その先はない。不退転の決意で運転資金の圧縮から投資の厳選まであらゆる方法で財務体質の改善に取り組みました。本当に小さな小さな取り組みを全社で積み重ねていきました。その結果、D/Eレシオをピーク時の1.4から0.7へと半減できた時には心から安堵しました。

伊藤 この成果を踏まえて攻めに転じたのが、現中期経営計画(2016~2018年度)ですね。

十倉 現中期経営計画は、「Change and Innovation」のフェーズ2にあたります。フェーズ1(2013~2015年度)で財務体質を強化し、フェーズ2でポートフォリオを高度化して、来年度から始まるフェーズ3以降につなげていくという考え方です。

伊藤 優位性のある分野を見極めて経営資源を傾斜配分するという戦略は、実に当社らしいと思います。

十倉  規模で競うのではなく、マーケティングも含めた技術で勝負できる分野で戦っていくことを明確にしました。直近3年間の累計では、投資額の75%近くをスペシャリティケミカルに振り向けています。

現中期経営計画では高い利益水準とポートフォリオの高度化を実現

伊藤 Change and Innovationでは、前中期経営計画に続いて、現中期経営計画でも社会課題解決への貢献を明記していますね。

十倉 先生が提唱されているROESG※1という考え方がありますが、そもそも私たちは、利益を追求することとESGを両立することに違和感がありません。当社には、「自利利他 公私一如」― 我々の事業は一住友を利するのではなく、広く国家、社会、地域を利するものでなくてはならないという住友の事業精神が根付いています。そして、エネルギー・機能材料部門なら「環境問題」や「資源・エネルギー問題」、健康・農業関連事業部門は「食糧問題」、医薬品部門なら「人々の健康」のように、私たちの製品は社会課題に対応しています。私たちは、化学の力で人類社会が抱える課題の解決と豊かさの追求に貢献することを、目指す姿としているのです。このように、事業活動を通じてサステナブルな社会の実現に貢献し、自らも持続的な成長を続けていきたいと考えています。

伊藤 当社は筋金入りのESG経営企業だと私は思っています。しかも、資本生産性を高めつつESG、SDGsも究めるという両輪を本当にうまく組み合わせる経営をしておられる。情報電子化学部門・石油化学部門から関連製品と技術を切り出して新設したエネルギー・機能材料部門はわずか2年半で大きく伸びましたし、ポートフォリオの構成も非常に良くなりましたね。

十倉 2018年3月期はコア営業利益の3分の1をバルクケミカル(石油化学)、3分の2をスペシャリティケミカルが稼ぎ出すという非常にバランスの良い構成となりました。アジアの石油化学需給が引き締まったこともありますが、何と言っても苦節10年、ペトロ・ラービグ社のプラントがようやく高稼働になってきたことが大きいです。

伊藤 私も取締役としてラービグの厳しい時期を見続けてきましたから、それは本当に嬉しいですね。当社はこの5年でキャッシュ・フローと利益の創出力を飛躍的に高め、ROEは15%を、ROIは7%を超えるまでになりました。ここまで変わった企業の例は、そうはないと思います。当社の実行力を強く感じた5年間でした。

  1. ROEとESGを二項対立ではなく、どちらも重要ととらえる考え方。伊藤邦雄氏が提唱。

ESG経営の進化

社外取締役の意見を最大限に活かし、ガバナンスを進化させ続ける

伊藤 当社のガバナンスは、あらゆる面で着実に良くなっています。一つ例を挙げるのであれば、取締役会の実効性評価で出た課題に対する取り組みですね。当社では、取締役会の実効性評価についてアンケートを取り終わった後、その結果を受けた議論をしています。その中では当然、「これは当社のガバナンスの課題ですね」といった意見が出てきます。それをそのままにせず、ちゃんと翌年には改善している。そうした真摯な姿勢と行動の積み重ねが、当社のガバナンスを進化させてきたのではないでしょうか。

十倉 私は、ガバナンスを単なる制度とは思っていません。内部統制と相まって、ガバナンスの実をあげていかなければならない。その中で、社外取締役がおられることをフルに活用させていただかなくてはもったいないと思います。大所高所から、あるいは違う角度からハッと思わされる貴重なご意見をいただくことができるのですから。

伊藤 例えばM&A案件の情報を、社外の役員も入った取締役会でどの程度透明性高く提示するかには、その会社の姿勢が出ると思います。この点、当社は情報提供が非常に早く、しかも率直です。場合によっては、審議事項として提示される数カ月前に「スポット報告」という形で説明があります。インサイダー情報の固まりのようなM&A情報を、数カ月前から私たちに説明するのは勇気がいることだと思いますが、当社には「この情報は出さなくてもいいだろう」といった姿勢を全く感じません。

十倉 コーポレート・ガバナンスを本当に経営に活用して、武器になるようにしていこうと考えているのなら、そこまでやらなければ意味がないと思います。ご意見をいただきたいなら、議論に必要な情報はできるだけ早い機会に社外取締役と共有するのが当たり前のことです。社内でもこの考え方を徹底しています。

伊藤 もう一つ、常々感心させられているのは、十倉社長が取締役会の席上で、私たち社外取締役の発言の狙いや背景を、社内の方々に向けて翻訳してくださることです。「今の社外取締役の発言は、こういう意味合いなんだよ」「むしろ、これは応援なんだ。成功させて欲しいという意味で言ってくださっているんだよ」と。これは、他の会社ではあまりないことです。私たちが「こうしたらどうですか」と言う時には、なぜそう言うのかという背景が当然あるわけです。それを社長が社内向けに翻訳してくださることは、とても大事だと思います。

十倉 社内にいると、ちょっと距離を置いたところから自分たちを見るという機会がありません。その結果、知らず知らずのうちに同質の人たちの集まりになってしまいます。しかし、私たちは社会的存在です。株主をはじめとするステークホルダーをちゃんと意識して、最終的にそこから理解を得ることができなければ、長期的には企業が成り立ちません。

伊藤 それこそが、本来の意味でのガバナンスですね。

十倉 はい。だからこそ、社外取締役の方々が「もっとリスクをとって、攻める時は攻めろ」と背中を押してくださったり、逆に、「投資をした案件でも、問題があればいったん退くことも大事だ」と決断を後押ししてくださったり、検討中の案件についても「こういうところはちゃんと押さえたか」とか「もっと適切なタイミングで報告せよ」といった指摘をしてくださるのは、非常にありがたいと思っています。ただ、当社の社外取締役は皆、それぞれの分野の大家ですので、往々にしてご発言の内容はかなり普遍的です。それが、社内の人たちには理解できないという場面もあります。ですから、その意図されているところをなんとか社内に伝えたいという気持ちが強くて―特に意識してやっているわけではないのですが、時々、私が補足していることがあるのだと思います。

伊藤 今年の株主総会で、ある株主の方から「住友化学のコーポレート・ガバナンスはどうなんだ?」というご質問がありました。その時私は、「この数年間での当社のガバナンスは目覚ましい進化を遂げた」と自信をもってお答えしました。本当に、目覚ましいという言葉が決して大げさではないと思っています。

十倉 ありがとうございます。もちろんガバナンスの進化に終わりはありませんので、これからも、常に少しでも前進できるようにやっていこうと考えています。

住友化学のこれから

コングロマリットプレミアムで評価される企業を目指して

伊藤 「創造的ハイブリッド・ケミストリー」は、当社にふさわしい基本戦略だと思います。それを今後も実践していくためには、人材育成がますます重要になってくると思います。当社には個別の分野での専門性が高い人材が多くいます。しかし、事業と事業を組み合わせて新しいことを生み出すためには、今後はより視野が広く、創発を起こすことができるプロデューサー型人材の育成が必要なのではないでしょうか。

十倉 その通りだと思います。専門分野以外にもアンテナをはり、感性豊かな人材を育てていかなければならないと思っています。

伊藤 「ハイブリッド・ケミストリー」を掲げてさまざまな事業を営む当社のような企業に対し、資本市場の評価はコングロマリットディスカウントに傾きがちです。でも、当社は事業ポートフォリオの高度化を実践し、成果も出している。だからこそ、ディスカウントではなくプレミアムで評価される企業になって欲しいですね。

十倉 これからの社会課題に対するソリューションには、単一の事業や製品だけではなく、色々なものの組み合わせが必要です。それは創造的ハイブリッド・ケミストリーの実現であり、イノベーションでもある。そして、当社ならではの強みが出せる分野だと思います。次期中期経営計画では、コングロマリットプレミアムで評価される企業を目指していきたいと思います。本日はありがとうございました。

ESGの取り組み