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社外有識者との対話

2022鼎談「人材×DXによる組織のトランスフォーム」

取締役副社長執行役員 上田 博 / 社外取締役 村木 厚子 / 取締役副社長執行役員 新沼 宏

住友化学の人材戦略とDX戦略の両輪の取り組みについて、村木社外取締役と上田副社長、新沼副社長が現状と今後への期待を語り合いました。

人材×DXによる組織のトランスフォーム

人材戦略の理念と進化「人事施策の見える化」と「DE&I」

新沼 住友化学は、変わらぬ“理念”と、時代に合わせた“進化”の2つを意識した人材戦略を展開しています。約400年前から続く住友グループは、「人こそ最重要の経営資源」という理念を持ち、その下に歴代の総理事により「広く天下に良い人材を求める」「公平な処遇・育成をする」「人の成長を会社の成長に繋げる」などが語られ、実践されてきました。住友化学は100年余の歴史でその源流を継承し、最重要の経営資源である人材を確保・育成・活用していくという理念を守ってきました。それが、現中期経営計画の重要な柱である「持続的成長を支える人材の確保と育成・活用」です。これは現中計期間だけでなく長期的なタームで取り組み続けるテーマであり、人材戦略は全てこの不動の理念に立脚しています。

村木 これまで経営の関心事といえば、財務の数字に関連する内容が多かったですが、最近では、「ハーバード・ビジネス・レビュー」のコンテンツの約6割が人事関連になるなど、人材戦略への関心が高まっています。住友化学が旧来大事にしてきた、「人こそ最重要の経営資源」という理念に、時代が追い付いてきたとも言えるでしょう。また私は、女性の雇用促進や障がい者雇用を専門にしてきましたが、「広く人材を求める」「公平な処遇・育成」などは、ダイバーシティの観点からも非常に大事な原則であり、いま世の中で焦点が当たっている重要なテーマと重なります。これを引き続き大事にしつつ、現代社会に当てはめて常にチェックすることが、目の前の問題の解決策に繋がっていくと思います。

新沼 おっしゃる通り、理念は変わらずとも、その取り組みが時代に合っているかを顧みることは重要です。そして、人材戦略の“進化”の一つの柱が、まさにダイバーシティです。住友化学は、これまでもダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進してきましたが、昨年からは国内外の全グループ会社で取り組んでいくために「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)」として推進する体制にしました。DE&Iは、グローバルな基本原則を作り、各国の固有事情などを勘案しながらそれぞれでKPIを設定することに挑戦しています。性別・年齢・人種など、国ごとに抱えている問題は様々ですので、会社ごとに優先順位をつけて課題に取り組んでいきます。“進化”のもう一つが、社員が充実した職業人生を送るために大切にしたい価値や考え方を宣言した「すみか『こうします』宣言」です。「ワーク・ライフ・バランス」や「育成と成長」「仕事の進め方」などのアクションアイテムについてKPIを設定し、人事施策の見える化に取り組んでいます。労働組合、健康保険組合と一緒になって実行しているところが、当社ならではの特徴と言えるでしょう。また、「すみか『こうします』宣言」の中に、デジタルを活用した仕事の進め方、成長の加速などがあり、デジタルが人材戦略の進化を支える重要なカギとなっています。

村木 当社は世界中にグループ会社がありますが、文化も異なるなかでグループ一体となってDE&Iに取り組むのは難しい面もあると思います。しかし、むしろ海外の良い事例を国内に取り入れることができ、本社に良い影響を及ぼすと思います。また、「すみか『こうします』宣言」のような人事施策の見える化、KPIの設定は大事なことですね。ただ、今の若い世代や女性が仕事に求める要素は、「社会や人のためになる仕事か」「職業人として成長できるか」「楽しく、ワクワクできるか」の大きく3つだと考えます。KPIを設定し見える化する際にも、こうした要素を満たせるような制度作りが大事になると思います。特に難しいのは、仕事を楽しむことですね。

新沼 最新の社員の意識調査結果では、働くことの満足度は比較的高い結果が出ていますが、「楽しさ」を測る項目はまだないですね。従業員のモチベーションの根底にあるものは、どんどん変化しています。これは年齢によるものというより、社会全体の変化だという気がするので、会社も従業員の「楽しさ」という視点を意識して変化していく必要があると思っています。

上田 DE&Iについては、現在全社を挙げて進めているDXの推進体制にも表れています。従来の組織論とは異なり、モチベーションを同じくする人たちが手を上げ、組織を超えて集まり、バーチャルな組織をつくる。社内の多様な人材のスキル・発想を活かしてプロジェクトを進めるような動きが活発になっています。

DX人材の社内育成に強み「DX戦略2.0」に前倒しで着手

上田 住友化学は2017年に、若手社員を中心に当社の将来を考えるシナリオプランニングというものを行い、その中で「脱炭素社会」と「デジタル」という2軸を打ち出しました。それが、現在の「GX」と「DX」として踏襲されています。DXについては、「DX戦略1.0」と称し、Plant、R&D、サプライチェーンマネジメント、Officeの4領域の生産性向上に取り組み、一定の成果が得られました。その要因は、現場が自ら率先してDXに関する教育プログラム・認定制度を作り、社員教育を実践したことが大きいと思います。トップダウンではなく育成から入ったというのが、当社ならではのDXの特徴です。DX人材の育成が可能なのは、当社の歴史的背景に理由があります。当社は1970年代から、筑波地区、愛媛地区、本社など各拠点でデータ分析の技術者がいて、その技術を継承する人材の採用・育成を続けてきました。近年のDXの動きの中で、それらの人材ネットワークを繋ぎ、プラットフォームを整えたのです。

村木 私はいくつかの民間企業の経営に携わってきましたが、DXというと多くは「どこから人を採用するか」から話が始まります。しかし、住友化学はそうではなかったので、不思議に思っていましたが、今やっとその理由が分かりました。既に社内にDX人材がいて、さらに育成・教育のベースがあるのは、非常に大きな強みですね。現場の取り組みを発表する「DXリポジトリ」にも参加させていただき、トップダウンではなく、現場が主体的に考えているのがよく分かりました。何より、皆さんが非常に楽しそうだったのが印象的です。DXという一つの手法が提示されたことで、それぞれが自分に何ができるかを考えるきっかけとなっていて、これからますます面白いことが起こりそうだと、期待が高まります。

上田 ありがとうございます。現中計では、さらに「DX戦略2.0」に前倒しで着手し、取り組んでいきます。業務の効率化や様々な取り組みの高度化に加え、お客さまやサプライヤーとどう繋がっていくか――顧客接点強化と顧客満足度向上に着目したデータドリブン経営による競争力の強化が、「DX戦略2.0」で目指す方向性です。よって、よりお客さまやサプライヤーに近い事業部門が主体となり、それぞれの事業特性に応じたDX課題に対応していきます。これは「1.0」が終わってからの「2.0」ではなく、並行して走らせるイメージです。

村木 先ほど社内で、組織を超えて繋がるプロジェクトが増えたというお話がありましたが、そうした動きを顧客まで広げ、さらに同業や異業種まで広げて繋がり、協働していくことで、顧客の期待に応え、さらには顧客の期待を超える提案ができるようになるのだろうと思います。

新沼 人事として、DXを推進する人材育成については、データサイエンティスト、データエンジニアなどそれぞれ目標人数を持って取り組んでいきます。そのために、もともと化学産業のドメイン知識がある社員に新たにDXの知識を注入し、社内で育成するのが最大の柱。同時に、外部から高度な専門技術を持つスーパー専門職の採用と、全社員に広くデジタルリテラシーを持ってもらうための教育を実施します。集中的な教育・育成、採用、リテラシー教育に、バランスよく取り組んでいきます。

DX×人材で化学反応を起こしさらなる強い組織・企業へ

上田 DX戦略を中核となり推進しているデジタル革新部が、新しい仕事のやり方を持ち込んでくれています。例えば、「OODA(ウーダ)」。Observe(観察)⇒Orient(状況判断による方向付け)⇒Decide(意思決定)⇒Act(行動)のステップを回しながら、全員で仕事を見える化して管理。目標に対して遅れが出ると、すぐにチーム内の誰かがサポートし、組織全体として遅れを取り戻しています。これは化学産業の従来の仕事のやり方とは異なるアジャイルな仕事のやり方で、まさに時代にマッチした手法です。DX戦略を進める中で、DXマインドから当社に新しい風が吹き込み、そこからまた新しい人材やスキルが生まれてくることに期待しています。

新沼 職業人生が長期化していく中で、これからはワンスキルで終わらずに、スキルアップや、新しいスキルを身に付けるリスキリングが必要になります。その際、デジタルリテラシーは必要不可欠といえます。今後はデータを通じて新しい仕事・人と繋がり、価値を生んでいくことが求められますから、社員の皆さんには、DXの技術を使いながら、職域を広げていってほしいと思います。

村木 これからは、チームとして自発的に仕事を考え、最大限力を発揮できるような組織が、強い組織になると思います。また、新しいことを取り入れることや異なるものと繋がることで、新たな価値を生み出すのは、世界的に重要なテーマ。DX×人材の中で、そうした化学反応を起こしていくことが、組織・会社を強くしていくことにつながるでしょう。そのためにも、重要になるのは採用です。住友化学の会議に参加すると、全ての議論は「やはり中身が大切」というところに帰着します。私はその住友化学らしさが大好きですが、中身が良いことは必要条件で、それを発信できて初めて必要十分条件になります。ですから住友化学の理念やミッションを積極的に発信し、良い人材・企業と繋がっていけば、今後さらに強く、面白くなると感じています。また、私が客員教授を務める大学に住友化学の社員の方に講師として来ていただいた際に、住友化学の社会貢献の姿勢に、多くの学生が「企業に対する見方が変わった」と感動していました。若い人が将来の職業イメージを描いたり、理系に興味を持ったりすることは、日本の将来にとって非常に重要なことです。住友化学は、日本の教育の在り方や理系人材の育成にも貢献できる会社だと期待しています。

上田・新沼 おっしゃる通り、社会に向けた発信機会を増やし、社員だけでなく、社会からエンゲージしたいと思われるようにファン層を増やしていきたいと思います。本日は貴重なお話を頂き、ありがとうございました。

2021対談「住友化学が進むカーボンニュートラルへの道」

住友化学(株) 代表取締役社長 岩田 圭一 / 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 吉高 まり氏

気候変動問題に関するスペシャリストであり、政府のイニシアティブでもご活躍されている三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)の吉高まり氏をお迎えし、住友化学グループの気候変動対応とカーボンニュートラル(CN)実現に向けた道筋について、社長の岩田と対談を行いました。

住友化学が進むカーボンニュートラルへの道

気候変動とCNへの取り組み

岩田 住友化学グループは、気候変動問題を人類喫緊の課題と捉え、早くからその解決に向けたさまざまな取り組みを行ってきました。そして現在、日本を含む世界各国が2050年CNを目指しています。しかしCNは、現状のテクノロジーだけでは実現は難しく、イノベーションが必要です。化学産業はイノベーションの尖兵であり、その中でも当社は先陣を切ってイノベーションを起こし、課題解決につなげていきたいと考えています。

吉高 2050年CNは、産業界にとっては高いハードルと言えます。どのような方向性で、実現を目指すのでしょうか。

岩田 大きく二つの方向性で進めていきます。まずは、当社の生産活動・事業活動で排出する温室効果ガス(GHG)をゼロにすることを目指す、これは私たちの「責務」と位置付けています。もう一つは、当社の製品・技術を通じて社会全体のCNを推進していく「貢献」。「責務」と「貢献」の両輪で、CNに向けて進んでいきます。そのための専門組織として、2021年2月に「カーボンニュートラル戦略審議会」と「カーボンニュートラル戦略クロスファンクショナルチーム」を設置し、グローバルにCNを推進する体制を整えました。

吉高 TCFDでは、ガバナンス・戦略・リスク管理・KPIの4つの観点での情報開示が求められています。「責務」と「貢献」は、このうち「戦略」の情報と言えるでしょう。つまり、自社に及ぼすリスクをどう考え、それに対する責務をいかに果たしていくか、そして社会への貢献によって自社をどう成長させていくかという戦略にあたると捉えることができます。そしてESG投資家の関心が高いのが、「ガバナンス」です。これについてもグローバルに体制を組んでいることは、大変評価できる点だと思います。

岩田 ありがとうございます。総合化学メーカーである住友化学「ならでは」と、技術的なハードルは確かに高いけれど当社なら実現して「くれるかも」という二つのキーワードを意識し、科学(自然科学+社会科学)をベースとした技術に裏打ちされた戦略を策定し、取り組んでいきます。当社は、住友の銅の製錬により排出されるガスを原料として有効活用し、肥料を作ったのが成り立ち。まさに環境問題を克服する「責務」と、肥料供給による農作物への「貢献」という使命に立脚しています。CNへの当社の取り組みとは非常に親和性があり、CNに向かう精神は全社員のDNAに組み込まれています。

吉高 環境問題は、もはや外部不経済ではなく、成長要因の一つになり得ます。そこへの取り組みを創業来の経験としてお持ちだということで、住友化学なら実現できるのではないかという期待が高まります。

自社排出GHG削減に向けて

吉高 「責務」にあたる自社排出のGHGについては、どのように削減を進めていくのでしょうか。

岩田 当社は2018年に総合化学企業として世界で初めてSBT認証を取得し、パリ協定の2℃目標に整合した目標を掲げて取り組んできました。この目標に沿って、2013年に954万トンあった当社のGHGスコープ1・2排出量は、2020年度で742万トンと約2割削減を実現しています。これは千葉のエチレンプラントの停止や、CO2排出量の多い製品の入れ替えなどによって、事業ポートフォリオを変更することで達成してきました。しかし、直近の気候変動サミットで日本政府が「2030年度までに2013年度比46%削減」を表明したことから、当社としてもそれに見合ったWell Below 2℃などの目標を再設定し、2030年度に2013年度比で50%近くの削減を目指すことを考えています。

吉高 日本政府が表明した2030年度46%減のインパクトは大きく、産業構造の変革につながるでしょう。そんな中で、2030年度に50%近くまでの削減を現実的に目指せるというのはすごいですね。

岩田 もちろん簡単ではありませんが、無茶な数字ではないところまで私たちは実績として積み上げてきました。これは結構重要なポイントで、2050年のCNは目標として言えても、2030年の50%削減はなかなか言えない企業が多いと思います。2030年なんて、もうすぐそこですからね。ただ、2050年にCNを目指すために2045年から取り組んでも全然間に合わないので、当社はまず着実に減らしていくため、2030年に50%に近いところまでの削減を目指すわけです。当社のGHG排出の全体像をご説明すると、化学産業は、原料物質に電気やスチームによる熱などのエネルギーを与えて化学反応を促し、製品に転換する産業です。当社のGHG排出量742万トンのうち、「エネルギー由来」が7割、化学反応や廃棄物処理の結果発生する「プロセス由来」が3割です。現在、化学プラントで主要な熱源となるスチームは化石燃料で発生させていますが、将来的に全て再生可能エネルギー由来の電力になることを前提に、スチームの発生を全て電化で対応することを考えています。これは大変なイノベーションの蓄積です。

吉高 全て電化という方向性には驚きました。再エネ由来へのシフトは個社だけでできることではないので、再エネ由来の電力を前提として、まず電化を進められるというのは非常に難しい判断になると思います。

岩田 再エネ由来の電力にシフトすることを前提にしないと、製造業のCNは厳しいものがあります。一方、プロセス由来についてはCCUSなどカーボンネガティブの技術をベースにしてゼロを目指していきます。

吉高 自社排出GHGゼロに向けた道筋が、非常にわかりやすく、ESG投資家に響くと思います。

  • CCUS:工場などから排出されたCO2の回収・有効利用・貯留

住友化学「ならでは」の技術

吉高 気候変動対策のための着実な移行(トランジション)やGHG大幅削減に向けたイノベーションに取り組む企業に対する投資を促進させるべく、政府もクライメート・イノベーション・ファイナンス戦略を策定しました。その中でも、ESG投資家の目を引き、資金を呼び込むことができる、具体的な技術のアピールが欠かせません。住友化学には、どのような技術があるでしょうか。

岩田 まずは、「Sumika Sustainable Solutions (SSS)」に認定されている製品・技術のうち、気候変動の緩和と適応に貢献するものがあります。家畜の排泄物の窒素量を減らす飼料添加物の「メチオニン」や、電気自動車に使用されるリチウムイオン二次電池用の「セパレータ」はその一例で、ともにGHG排出削減に貢献する製品です。「SSS」は現在、57の製品・技術まで拡がり、売上規模では5,000億円近くにまで達しています。「SSS」を通じて既存の製品・技術で貢献していくとともに、現在開発中の技術も数多くあります。当社は化学会社ならではの炭素循環技術を中心に取り組んでいます。中でも私たちがやろうとしているのは、究極のリサイクルともいわれるケミカルリサイクル。積水化学との一般ごみからのエチレン製造技術、室蘭工業大学とのプラスチック廃棄物からのオレフィン製造技術、島根大学とのプラスチック廃棄物などからのメタノール合成技術など、さまざまな企業、大学、公共団体と連携しながら開発に取り組んでいます。

  • 気候変動対応、環境負荷低減、資源有効利用の分野で貢献する当社グループの製品・技術

吉高 気候変動と並びESG投資家の関心が高いのが、生物多様性です。ケミカルリサイクルは、プラスチックやごみが閉じられたサイクルの中で循環し、外に廃棄されないようにする取り組みですから、自然界への影響が低減でき、気候変動とともに生物多様性にも貢献する取り組みです。

岩田 ケミカルリサイクルは、当社の技術を活かせる分野。今後も研究開発を加速していきたいと思っています。そして、先ほどのCCUS技術には、CO2を選択的にキャプチャーする技術と、CO2を化学品に転換する技術があります。前者は機能膜による低エネルギー・高効率なCO2分離技術を開発中で、後者は、先ほどご紹介した島根大学とのメタノール合成技術があります。その他にも、ナフサ分解の燃料をアンモニアに置き換える技術の開発を共同プロジェクトで進めています。最後に、究極のカーボンネガティブ技術としてDACが注目されていますが、膨大なエネルギーとコストが課題になります。そこで私たちは植物に注目し、生態系を活用した「EcoDAC」を開発中です。「EcoDAC」の一例として、菌を土に散布して活性化させ、植物のCO2吸収量を増やす技術があります。それによって、例えば現存の植物のCO2吸収量が10%増えれば、植林よりも効率的に、膨大な量のCO2削減に貢献することができる。そこでは当社の農薬や肥料の知見を存分に活かすことができます。この技術については、現在アメリカの大学で科学的なデータを取得する実証段階にあります。

  • DAC:大気中からのCO2直接回収

吉高 非常に興味深いですね。植物に着目した観点でいうと、CDPでも「フォレスト」が「生物多様性」に代わるとも言われるぐらい重要な項目になっていますので、ぜひ一歩先んじたビジネスとして取り組んでいただきたいですね。ここまでお聞きした技術は、どれもストーリーがあり、さらにそれらがバリューチェーンとしてつながっています。いかにトップが自社の戦略をナラティブに語れるかは、ESG投資家が最も重視する点の一つです。住友化学のストーリーのある戦略を、ぜひわかりやすく訴求していただきたいと思います。

住友化学への期待

吉高 住友化学の気候変動対応とCNに向けた戦略をお伺いし、非常に期待感が高まりました。2050年のCN実現が、決して言葉だけではなく、現実として見えている印象を受けました。なかなかマインドセットが変えられない企業もある中で、住友化学が化学業界をリードするとともに、産業界全体をリードする存在となっていただきたいと思います。

岩田 CNは、目指すだけでは到底実現できません。私たちは、当社らしい科学に裏付けられた戦略に基づき、2050年CNに向けて着実な進捗を示していきます。本日はありがとうございました。

2021対談「進化を続ける住友化学のガバナンス」

社外取締役 池田 弘一 / 社外監査役 米田 道生

池田社外取締役、米田社外監査役に、住友化学のガバナンスへの取り組みについて、現状への評価と今後の課題をお話しいただきました。

進化を続ける住友化学のガバナンス

モニタリングボードへと取締役会を変革

池田 私は2011年に住友化学の社外監査役に、2015年に社外取締役に就任しました。社外役員として過去10年を振り返り、住友化学のコーポレート・ガバナンスは着実に進化していると感じます。大きな契機となったのが、2015年10月に取締役会の運営方法を抜本的に変更したことです。従来は法定事項を決議する意思決定機能に重きを置いてきましたが、取締役会の意思決定範囲を絞りこみ、監視・監督機能を充実させました。当時は経済界全体でガバナンス強化への動きが活発化した時期でもありましたね。

米田 日本では2015年6月に金融庁、東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを策定しました。当時、私は証券取引所の経営に携わっていたのですが、策定の背景として、四半世紀にわたる日本株式市場の低迷から脱却するために、政府の成長戦略と連携して日本企業の稼ぐ力を高めていく、そのためには取締役会に社外役員の多様な意見を取り入れて活性化する必要があるとの認識がありました。その頃は大企業の不祥事もあり、海外投資家から日本企業のガバナンスへの批判も高まっていました。
 私は2018年9月に社外監査役に就任しましたが、住友化学はコーポレートガバナンス・コードの主旨と自社の実態を踏まえ、地に足の着いた改革をされてきたと感じます。監視・監督と執行の立場が離れすぎても、取締役会がモニタリングボードとしての機能を発揮できません。住友化学では社外役員への報告事項(情報提供)も充実し、その結果、取締役会では社外役員から多様な観点で質問や意見があり、非常に濃密な議論が交わされます。

池田 一般に社外役員への情報格差が問題となりがちですが、住友化学ではさまざまな情報を入手する機会がありますね。取締役会の決議事項に関する事前説明会はもちろん、総合化学という多岐にわたる事業について、事業部門だけでなく管理部門からのローテ―ション報告もあります。また、現場を訪問する機会として、年に2回の国内工場訪問に加えて、過去には韓国、サウジアラビアの現地企業を訪問しました。正直申し上げると、過去には住友化学も含め、取締役会がセレモニー化している企業が多くあったと思います。現在の住友化学では社外取締役が4名(うち1名は女性)に増員され、活発に意見が飛び交う実効性の高い取締役会になりました。かつては30分程度で終了した取締役会の所要時間が、今や3時間に及ぶことも少なくありません。

  • ローテーション報告:分野ごとにまとまった時間を設けての包括的・体系的な報告

事業の健全なリスクテイクのために議論を重ねる

米田 社外役員がガバナンス強化に貢献するための前提として、経営陣が社外役員の機能を理解していることが非常に重要です。根底に経営陣と社外役員との信頼関係があってこそ、率直な議論が生まれます。住友化学では、毎年、取締役会の実効性評価を行う際にも単に報告を聞いて終わりではなく、議論を重ねています。非常にまじめというか、実効性評価が文化として根付いていますね。

池田 おっしゃるように経営陣の理解がなければ、社外役員の意見はただうるさいだけです。住友化学は社外役員とのさまざまなコミュニケーションの場を広げていますが、経営陣との信頼関係があるからこそでしょう。例えば、私どもの希望で昨年から社長・会長と社外役員との小規模な懇談会の場を設けています。私自身も経営に携わってきた経験から、社外役員として感じた懸案事項について、取締役会の審議事項とする前に、経営陣との率直な意見交換の場を設けたいと提案しました。近年、住友化学では大型M&Aやサウジアラビアのラービグ第2期計画など、大規模案件がありました。社外役員は監視・監督機能を有しますが、単なる批判ではなく住友化学の応援団として、過去のしがらみに捉われず、将来の発展に向けた健全なリスクについて議論を重ね、事業を後押しすることが重要な役割だと思っています。健康・農業関連事業や医薬品事業での大型M&Aについては、住友化学が中長期的に注力すべき重点分野「食糧」「ヘルスケア」の柱となりえる重要案件であり、取締役会では財務面も含めしっかりと議論しました。多様な専門性を有する社外役員が機能を発揮できるのも、社外役員のさまざまな視点からの意見を吸い上げ、経営陣や現場に着実に届けるという素地が、住友化学にあるからですね。

米田 池田取締役のお話の通り、取締役会の本来の役割は、企業の成長につながる重要案件において、経営陣が適切にリスクテイクするための環境整備です。ガバナンス改革=取締役会の監視・監督機能の発揮と言われますが、ガバナンスは目的ではなく、経営陣が企業の成長のために事業を進める手段です。住友化学では取締役も監査役も立場にこだわらず議論に参加していますが、特に監査役はリスクテイクの裏付けとなるリスク管理について助言しています。

ガバナンスの目的は形ではなく実効性の追求

池田 住友化学は監査役会設置会社ですが、海外では日本の指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社のように、監査役ではなく監査委員がいるのが主流です。私は社外取締役として双方のガバナンス形態を経験していますが、指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社にすれば必ずガバナンスがうまくいくというわけではありません。大切なのは形態ではなく、会社の特性に沿ってガバナンスの中身を強化することです。総合化学メーカーとして複数の事業シナジーを追求する住友化学の場合、事業を熟知した執行役員が取締役を兼任し、監査役が大きな権限を持って経営を監督する監査役会設置会社の形態を活かしながら、実質的にガバナンスを強化してきました。私自身も、住友化学のように非常に多角的な事業を展開する企業においては、社外役員は応援団として経営陣に寄り添いながら、監視・監督機能を発揮することが重要だと感じています。

米田 日本の大企業は3通りの統治形態を選択でき、私は全ての形態を経験していますが、各々に長所・短所があります。どれか一つがベストではなく、企業が経営の実情を勘案して形態を選択すべきで、いずれの形態でもガバナンス強化の取り組みは継続する必要があります。監査役の立場から監査役会設置会社の利点を挙げると、監査役会が取締役会から独立した機関であること、そして監査役各人が単独で監査する権限を有するため情報収集機能が保証されていることの2点です。いずれも実質的に監査役機能を発揮するには不可欠な要素です。住友化学の場合は、このような監査役会設置会社の利点を十分に活かしつつ、一方でコーポレートガバナンス・コードを踏まえて取締役会の監視・監督機能を強化することで、監査役会と取締役会の両方がきちんと機能する形を作り上げてきました。監査役会設置会社は日本独自の制度であるため、海外投資家からはわかりにくいという意見もありますが、それならば説明をすればよいのであり、単に欧米の制度に合わせるのではなく、本来の目的であるガバナンスの実効性を追求するべきだと思います。

  • 監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社

池田 その通りですね。住友化学に限らず日本企業は、「真面目にやっていればわかってもらえる」というところがあり、広報活動は苦手分野です。グローバルに事業を展開するにあたり、自分たちの仕事や、ガバナンスの状態についても、わかりやすく社外に知らしめるということがさらに重要となっています。

これからの住友化学のガバナンス

池田 積極的に海外投資を行った結果、海外売上収益比率が6割を超える現状を踏まえて、海外グループ会社のガバナンスには力を入れていますが、今後も一層対策を強化していくことが、これからの住友化学の最大のテーマだと思います。住友化学では、さまざまな切り口でグループ会社に関する報告を受けていますが、海外グループ会社のリスクは一般的に高いのも事実です。対策を強化していくためには、国内の考え方だけで管理するのではなく、いかにガバナンスにおいてもダイバーシティ(多様性)を取り入れるかという視点も重要だと思います。

米田 SDGsへの取り組みの重要性が社会全般に浸透しつつあります。気候変動などの社会課題の解決に向け、住友化学はすでにいろいろな取り組みをしていますが、投資家にとってはいまひとつ見えにくい部分もあります。取り組みの中身について市場やステークホルダーにわかりやすく説明することも、ガバナンスの重要課題です。取り組みそのものだけでなく、その発信という観点でもガバナンスを進化させる必要があります。

池田 社長・会長・社外役員だけの直近の懇談会では、サステナブルな社会を実現する取り組みを単なる社会貢献活動ではなく、いかに事業に落とし込んでいけるのか、健全にリスクテイクする重要性を改めて指摘させていただきました。今後も私たち社外役員が意見を提示することで、住友化学がSDGsへの取り組みを多面的に検討し、着実に広げて欲しいですね。

米田 時代や事業環境が変わるなかで、企業が持続的に成長を続けるには自らが変わる必要があります。しかし、社内だけで議論するのではなく、私たち社外の人間が議論に参加することで変化しやすくなる部分があるのではないでしょうか。監査役としては、実際に業務を執行する経営陣がリスクテイクできるよう、リスク管理の観点からサポートし、健全な変化を促していくことで、住友化学の発展を支えていきたいと思います。

2020鼎談「住友化学の進化し続けるESG経営」

取締役 副社長執行役員 上田 博 / アセットマネジメントOne株式会社 責任投資グループ チーフESGアナリスト 櫻本 惠 氏 / 取締役 専務執行役員 新沼 宏

アセットマネジメントOne株式会社のチーフESGアナリストである櫻本氏をお迎えし、時代の変化に対応し、進化を続ける当社グループのESG経営について、語っていただきました。

住友化学の進化し続けるESG経営

住友化学のESGの考え方

新沼 まず、当社のESGの考え方を簡単にご説明したいと思います。当社ではサステナビリティ推進基本原則に則ってサステナビリティの実現に取り組んでいますが、その根本にはCSV(Creating Shared Value)の考え方があります。「住友の事業精神」の一つに、住友の事業は、住友自身を利するとともに、国家を利し、かつ社会を利するものでなければならない、という「自利利他 公私一如」の精神があります。また、当社は、1913年に環境問題の解決と農産物の増産を目的に設立されました。まさにCSVに立脚した事業が、私たちの起源となっています。

櫻本 住友の事業精神である「自利利他 公私一如」は私の大好きな理念です。まさに今日のCSVに通じるものがありますね。社員の方とのエンゲージメントの際にも、その精神が浸透していることをしっかりと感じています。

新沼 ありがとうございます。当社の姿勢を表す象徴的な出来事をご紹介したいと思います。当社が開発した「オリセット®ネット」が、2001年にWHOからアフリカのマラリア対策の防虫剤処理蚊帳として推奨されました。これは、石油化学の技術と農業化学の技術をハイブリッドした製品で、これまでに約600万人以上の方がマラリアで命を落とすことから救われています。さらに、その売上の一部でアフリカに学校を建設するなど、教育支援に取り組んでいます。また、タンザニアに「オリセット®ネット」を生産する会社を設立し、約7,000人の雇用機会を創出しています。このように、感染防止、教育、雇用という事業サイクルをつくり、統合的な社会課題解決に取り組んできました。2016年に当社は、国連総会プライベートセクターに招かれるなど、この取り組みについて、非常に高い評価をいただきました。このマラリアという感染症対策に大きく貢献しているというシンボリックな事例が、当社グループのESG推進の旗印になっていると感じます。

櫻本 住友化学の技術で生まれたビジネスを、社会課題の解決につなげられた好事例ですね。

気候変動問題への対応

櫻本 住友化学の気候変動に対する取り組みは、国内企業の中でも先進的なものだと考えています。TCFDにいち早く賛同し、Sumika Sustainable Solutions(SSS)として認定した、環境負荷低減に貢献できる製品・技術の温室効果ガスの削減貢献量などを積極的に発信されていますね。これはすごい、というのが私の正直な印象です。また、2018年には総合化学企業として世界で初めてSBT(Science Based Targets)の認定を取得するなど、積極的な活動が極めて高い評価を得ています。ここまで前向きな企業は、他にありません。総合化学メーカーとして今まで培ってきた技術力を活かして、この社会課題に対して真剣に立ち向かっている。その真剣度合いが投資家に伝わってきます。

上田 SBTはトップ自らが継続的に検討し推進してきたもので、グループのGHG排出量を2030年までに30%、2050年度までに57%以上を、それぞれ2013年度比で削減するコミットメントを発表しています。これは実は、技術的には相当大変なことです。例えば、エネルギー効率の高いボイラーに更新するなど、プラントの生産性を抜本的に変革する覚悟がないと達成できない目標です。その大きな改善に向けて社員がアイデアを出して、工夫しているところです。

櫻本 Scope3の目標には、サプライヤーも協力しているのですか。

上田 説明会の開催をはじめ、サプライヤーとは常に接点を持ち、説明や議論をしています。前向きな姿勢が感じられますが、具体的な削減目標値の設定についてはこれからの課題です。

廃棄物問題への対応

櫻本 廃棄物問題に関しても、非常に積極的な活動がなされていると思います。2019年1月には廃プラスチックの国際アライアンス(AEPW)にも設立メンバーとして参画されています。もちろん、廃棄物問題への対応はレスポンシブルケア活動の延長線にあり、化学会社にとって積極的な活動は当然といえますが、この問題は世の中の関心も高く、私自身もその取り組みは高く評価し、関心を持っています。

上田 ありがとうございます。当社のプラスチック廃棄物問題への対応についてご説明したいと思います。3R(リデュース、リユース、リサイクル)のうち、リデュースについては、パウチ製品など食品包装材料の薄肉化を進めています。これによりプラスチックの使用量を削減できます。リユースについては、プラスチック段ボール(通い箱)などに代表されるリユース用途の製品を増やしています。そして最後にリサイクルですが、「ケミカルリサイクル」が重要だと考えています。化学反応で廃棄物を基礎原料に戻し、エネルギーを使わず触媒技術でリサイクルを可能にするものです。その一環として、積水化学工業と協働でゴミをガス化して、エタノールに変換し、ポリオレフィンを製造する技術開発にも取り組んでいます。さらに、廃プラスチックを化学的に分解し、石油化学製品の原料として再利用する技術を、室蘭工業大学と連携して開発しています。ケミカルリサイクルを推進することにより、石油資源の使用量と廃プラスチックの排出量をともに削減し、持続可能な社会に貢献したいと思います。この活動を日本発の技術として、発信したいと考えています。

櫻本 さまざまな活動を進めているんですね。お話しいただいた外部との連携は、非常に評価できる取り組みです。オープンイノベーションでWin-Winの関係を構築することは、素晴らしいと思います。

サステナビリティ推進と経営の統合への取り組み

新沼 当社は、サステナビリティ推進において、「仕組み」と「志」が大切だと考えています。「仕組み」については、2018年4月に従来のCSR推進委員会を発展させ、サステナビリティ推進委員会を設置しました。そして2019年3月には、7つのマテリアリティを特定しました。特定にあたっては、経営会議で数回かけて喧々囂々と議論しました。その上で、決して完璧ではないがとにかく決定しサステナビリティの取り組みを前進させようじゃないか、ということで公表し、現在はそれに対するKPIを設定するまでに至りました。

櫻本 住友化学のサステナビリティ推進の仕組みは、外部にも理解しやすくなっていると思います。特定された7つのマテリアリティは、とてもよく整理されていると思います。重要課題が多すぎて、どれが重要なのかわからない企業もあるなかで、7つに絞り込んだのは良いことです。さらに、マテリアリティを事業とリンクさせ、将来キャッシュ・フローを生み出していこうという姿勢も評価できます。あえて言えば、今後はKPIの開示を充実させ、PDCAサイクルを意識した運営がよくわかる情報開示を目指してほしいです。

新沼 開示面については、改善していきたいと思います。次に「志」については、特に社員の「参加」を大切にしています。2016年には「サステナブルツリー」というウェブサイトを開設しました。一人ひとりが、当社グループのサステナビリティ活動にどう貢献したいのか、世界にどう貢献したいのかを投稿するサイトです。2019年には、約1万2,000件の投稿があり、グループ社員それぞれがサステナビリティの推進を自身の問題として捉えつつあることが感じられます。

櫻本 社員のモチベーションが非常に高いことがわかります。グループ全体へのさらなる浸透を期待しています。

今後の課題と期待

櫻本 今後、住友化学に期待することは、長期ビジョンの提示です。10年以上先の技術や需要を見通して、長期ビジョンを示すのは難しいことだと思います。しかし、ぜひとも長期ビジョンを掲げ、そこからバックキャスティングした経営戦略やESGの方針を示すことにチャレンジしてほしいと思います。

上田 仰る通り、長期ビジョンは明確に示せていません。現在の中期経営計画では技術面でのトレンドは分析していますが、10~20年後の状況を想定し、皆さまに見える形で会社の方向性を示すところまではできていません。そこは今後の検討課題だと思います。

櫻本 ぜひお願いします。住友化学の課題をあと2つ挙げたいと思います。一つは、執行役員の報酬にESGの取り組みの評価が反映されていないことです。これは、企業価値向上に対して即効性がないESGへの関与が限定的になる可能性が大きいです。CSV経営の実践として、経営陣幹部の報酬には反映されていますが、より広い範囲の執行役員にも導入することで、これが長期的に企業価値向上に効果があると考えています。

新沼 実は、経営陣幹部以外の執行役員の報酬にも、要素として反映させています。しかし、ご指摘の通り外部に示せていないので、その点は工夫したいと思います。

櫻本 ありがとうございます。これは投資家が聞きたいことでもありますので、ぜひ、外部にもわかりやすく伝えていただきたいです。もう一つは、取締役会のダイバーシティの推進です。中長期的な企業価値向上の観点から、適任であることはもちろん重要ですが、やはり可能な範囲で取締役会のダイバーシティを推進していただきたいです。現在、執行役員の女性は一人ですので、これではダイバーシティは進みにくいのではないでしょうか。

新沼 ご指摘の通りです。重要課題として特定し、KPIを設定していますので、しっかり取り組んでいきます。社内から育成していき、部長・理事に女性を増やすなど候補者を拡大することで、実効性を上げていく考えです。

櫻本 化学という業態の特色として女性が少ないこともありますが、社内で育成していくことは重要だと思います。

上田 本日は貴重なご意見を大変ありがとうございました。当社の取り組みについて、非常に良いディスカッションができたと思います。これからも、今いただいたようなご指摘を含めた取り組みや情報開示の充実に取り組んでいきたいと思います。

櫻本 住友化学において、「自利利他 公私一如」の精神は、徹底的にこだわりを持って貫いていただきたいと期待しています。本日はありがとうございました。

  • 専務執行役員以上の役位の執行役員および社長執行役員の直下で一定の機能を統括する役付執行役員


櫻本惠氏 プロフィール

パシフィックコンサルタンツインターナショナルを経て、1990年3月、安田信託銀行(現みずほ信託銀行)入行。年金運用部門においてファンドマネジャー、アナリストとして運用業務に従事。
2013年10月、みずほ年金研究所において企業調査に従事した後、2016年10月より現職。環境省「環境情報と企業価値に関する検討会」「環境サステナブル企業評価検討会」などの検討委員、「環境情報開示基盤整備事業」WG委員を務める。
主な論文に「エンゲージメントを通じたESGの推進」(証券アナリストジャーナル[2018]1月号)など。一般社団法人日本気象予報士会 会員。

2019鼎談「事業戦略の進化を支えるコーポレート・ガバナンス」

代表取締役会長(取締役会議長) 十倉 雅和 / 社外取締役 池田 弘一 / 社外取締役 友野 宏

2019年4月より取締役会議長に就任した会長の十倉が社外取締役の池田取締役、友野取締役をお迎えし、これまでの中期経営計画の振り返りや新中期経営計画への期待と課題、コーポレート・ガバナンスの進化から新社長選出の経緯まで、忌憚なく語り合いました。

事業戦略の進化を支えるコーポレート・ガバナンス

着実に成果をあげた中期経営計画Phase1・2

十倉 池田取締役、友野取締役のお二方には、2015年6月に取締役にご就任いただきました。池田取締役は、2011年6月の監査役ご就任時から通算すると9年目、友野取締役は5年目と長期にわたりご指導いただいています。

池田 十倉さんが社長になられた際、最優先課題が財務基盤の強化でした。その当時、中期経営計画というと新規事業とか成長戦略などが流行っていました。しかし、そうではなくとにかく財務体質の改善を第一に掲げ、着実に達成していかれた。結果として最良の戦略だったと評価しています。

友野 私は中期経営計画の議論ということでは、Phase2の時から加わったのですが、住友化学の中期経営計画は、なんといっても9年(3年×3Phase)でひとまとまりの計画になっているところが秀逸だと思っています。軸をぶらさず継続性をもって、3年ごとに優先順位を決めて、Phase1(2013~2015年度)、Phase2(2016~2018年度)とそれぞれ結果を残してきました。

池田 Phase1では財務基盤の強化を最優先して劇的に成果をあげ、Phase2ではバルクからスペシャリティへとポートフォリオを高度化してきました。エネルギー・機能材料部門は、2015年の立ち上げ時は正直なところさまざまな事業の寄せ集めのようなものに思われましたが、Phase2の3年間で見事に成長しています。言葉だけではなく、このようにまず形を作って提示することも企業には重要なのだと改めて感じました。

十倉 情報電子化学部門に続く事業を立ち上げようと決めた時、私たちが取り組むべき事業は何だろうと考え、それはやはりエネルギーと環境であろうという結論に至りました。そこで、「エネルギー・機能材料部門」という箱を先に作り、こういった方向で事業を育成・開発していくのだというビジョンのようなものを示したのです。まだ発展途上ではありますが、現場の皆が頑張ってくれたおかげで情報電子化学部門もエネルギー・機能材料部門も順調に事業規模を伸ばしてきました。

ガバナンスの実効性が向上

友野 これまで事業撤退もいくつかありました。私自身、経営者としてたびたび経験しましたが、撤退というのは、費用面や雇用面など、さまざまな面でやはり難しい。だからこそ仕組み――取締役会はもちろん、必死になって取り組んできた現場の人も納得できるようなプロセス――が社内に整っていることが重要となります。

池田 そのような意味では、私はDPF※1事業からの撤退が強く印象に残っています。住友化学では年を経るごとにコーポレート・ガバナンスが進化し、事業のリスクについて取締役会でも活発な議論が展開されるようになりました。議論の前提となる事業部門からの報告もより率直になってきて、その先駆けがDPFのケースだったのではないでしょうか。

十倉 DPF事業からの撤退は2017年11月でしたが、これに先立つ2015年度にはローテーション報告※2を開始していました。翌2016年度からは経営会議などの社内議論での論点も取締役会で報告するなど、社内外の情報格差を埋めるための改善が奏効したと言えるかもしれません。

友野 2018年度からは経営会議の論点の報告に加えて、経緯や背景、たとえば議論の結果として当初の計画がどう変わったのかもお話しいただくようになりました。取締役会のメンバーもそれを理解して事業の参入や撤退を決めていくことができます。

池田 私たち社外取締役からの要望を取り入れる形で、取締役会の審議を活性化させるための施策が次々と導入されてきましたね。業務執行に対するモニタリングも格段にしやすくなりました。

中期経営計画Phase3への期待と課題

友野 Phase3(P20参照)については、私たち社外取締役も策定段階からたびたび報告を受けてきました。Phase1・2を成功させた自信と失敗からの学びを踏まえて、社内で十分議論されてきた計画だと感じます。What(何をすべきか)はよく練り上げられていますので、残る課題は「How(どのように)」でしょう。Phase3では取り巻く環境が大きく異なりますので、これまでの成功体験がそのまま使えるわけではない。よって過去の成功体験を引きずらないことや自前主義にこだわりすぎず外部のリソースもうまく活用していくことが肝要なのではないでしょうか。

十倉 まさにご指摘のとおりです。ただしこれは言うは易く行うは難しで、慣れ親しんだ仕事の仕方や発想を変えるのは非常に大変なこともわかっています。よって、ここでもまず形から変えていこうと、「イノベーションエコシステム」を掲げてさまざまなスタートアップと組んだり、海外にイノベーションセンターを作ったりと急ピッチで進めています。これらの取り組みによって、「次世代事業の創出加速」を実現していきたいと思っています。

友野 また「、デジタル革新による生産性の向上」もPhase3の目玉の一つだと思います。これは、工場の生産性が上がるとか、間接部門の仕事の能率が上がるとかいったことは取っ掛かりで、より広く、深い文脈で推進していくほうが良い成果につながると私は思いますよ。

十倉 私たちもそのように理解しています。まずは私たちがすでに持っている資産――計算科学やプロセス安全工学に関する組織や人材――をコアにしてデータ基盤をしっかりと作り、生産性を高めていく。まずはここから始めていくという意図で基本方針に含めました。イノベーションエコシステムもデジタル革新もこの3年間で終わるものではなく、時間がかかるものだからこそスピード優先、トライ・アンド・エラーでやっていきたいと思っています。

  1. ディーゼル・パティキュレート・フィルター(DPF):
    ディーゼルエンジン車に装着するチタン酸アルミニウム製のすす除去フィルター。当社は2011年9月からDPFの製造・販売を行ってきました。
    しかし、中長期にわたって安定的に収益を確保することは困難と判断し、2017年11月に撤退を表明しました。
  2. ローテーション報告:
    分野ごとにまとまった時間を設けての包括的・体系的な報告。

透明性と客観性をもって次期社長を選出

十倉 本年4月に私は会長に就任し、新社長には岩田氏が就任しました。当社は任意の役員指名委員会を設置しており、4名の社外取締役全員と会長・社長の6名で構成されています。役員指名委員会の審議では、池田取締役、友野取締役にも活発に議論していただきました。

池田 役員指名委員会・報酬委員会は、大半の会社はまだ任意での設置という状況です。さらに言えば実効性をもって委員会が機能している事例はまだ多くありません。当社は今回、初めてではありますが、社外取締役を含む役員指名委員会で次期社長について審議し選定しました。そのことは画期的であり、評価に値すると思います。

十倉 住友化学では、最高経営責任者の選定にあたっては役員指名委員会で十分に時間をかけて審議し、取締役会に助言を行うこととしています。この役員指名委員会の審議を意味あるものにするためには、最高経営責任者の候補になりうる人材を、あらかじめ委員の方に見ておいていただく必要があると思うのです。そこで住友化学では早い段階から、取締役会での報告者は原則として常務執行役員以下――つまり、取締役候補者となりうる執行役員とすることで、役員指名委員会メンバーである社外取締役の皆さまとの接点を増やす工夫をしてきました。

池田 役員指名委員会に求められるのは透明性と客観性だと思います。新社長の指名は、少なくとも社外取締役から見ると「ある日突然」といった形になりがちなのですが、住友化学では今回、十分な時間をかけてきっちりと実施してきました。選考の過程もリーズナブルであったと思います。

友野 時間をかけ、必要なプロセスを踏んできたからこそプロセスの透明性は高いものとなりましたし、関わった人の納得感も醸成されたと思います。審議の内容としては、次期社長の資質に関する内容が中心となりましたね。

十倉 はい。経営環境が大きく変化していく中で次期社長に求められる資質とはどのようなものかを中心に検討してきました。その結果、住友化学を率いていくには大胆かつ緻密な舵取りと果断な実行力が求められるとの認識で一致し、この共通認識に基づいて複数の候補者について審議してきました。私たちは総合化学という非常に間口が広い分野で事業を営む企業です。その住友化学が今後どのような企業を目指すのか、どのような姿になるのか――次期社長には、そのビジョンを構築し、提案する力が求められます。さらに言えば、私たちは製造・販売・研究の各機能を持ち、地域別では国内から海外まで多くの従業員に支えられている企業です。次期社長は、こうした組織を統率するに足る人格、識見も含めた資質、力量を持った人物であることが必要でしょう。これらの観点から審議を進めた結果、岩田氏が次期社長候補として最適であるとの結論を得て、役員指名委員会として取締役会への助言を行いました。そして取締役会で決議し、決定に至りました。

友野 この一連のプロセスの中で、池田さんも私も――住友化学と業種・業態は異なりますが――社長としての経験を、反省も込めてしっかりとお伝えしてきました。その意味では役割は果たせたと思っています。

住友化学の今後への期待

池田 化学業界――特に総合化学業界の特性なのかもしれませんが、株式市場の評価はあまり高いとは言えません。次期社長、そして会長には、総合化学メーカーならではの強みや良さをもっと知っていただく活動や、農薬や医薬品といった事業の成長など、新体制のもとでの取り組みを期待しています。

友野 今は「次の100年」を考え始める時期に差し掛かっているのではないでしょうか。環境変化のスピードが速まっていますので、100年ではなく、8掛けにした80年後、つまり2100年頃に住友化学がどうなっていたいのかをイメージしていくと、池田さんがおっしゃる意味での具体的な事業の成長にもつながってくるかもしれませんね。

池田 住友化学を見ていると、企業は先輩が築いてきた歴史や財産の上で成り立っているとつくづく感じます。グローバル化ひとつを取り上げても、長い年月をかけて地域に密着した形で海外進出をしてきており、そうした基盤があるからこそ、次なる成長を考えることができるのだと思います。

十倉 住友化学は、社会の信頼に応えることを最も大切にするという「住友の事業精神」と「自利利他 公私一如」という考え方を、創業以来、約100年にわたり受け継いできました。コア・コンピタンスである「幅広い技術基盤を活かしたソリューション開発力」と「ロイヤリティの高い従業員」、そして今お話しいただいた「グローバル市場へのアクセス」の3つを最大限に活かして社会課題の解決に取り組み、持続的な成長を実現していきたいと考えています。そのベースとなるのはコーポレート・ガバナンスであり、その改善・強化に終わりはありません。私自身も、取締役会議長として、引き続きその実効性の向上に努めていく所存です。本日はありがとうございました。

2018座談会「ESG経営による価値創造」

取締役 専務執行役員 上田 博 / 取締役 専務執行役員 野崎 邦夫 / アムンディ・ジャパン株式会社 近江 静子氏 / 取締役 専務執行役員 新沼 宏

長期投資家が企業価値をはかる上で重視するESG(環境・社会・ガバナンス)。
ESG投資が拡大する欧州に本社を置くアムンディ・ジャパン株式会社の近江氏をお迎えし、ESG経営を加速する住友化学グループの現状と未来について話し合いました。

ESG経営による価値創造

住友化学のESGの考え方

野崎 近江さんのいらっしゃるアムンディ社は企業評価の際にサステナビリティを大変重視していると伺っています。

近江 はい。企業が事業を行う中で、世の中の大きな流れや、それを受けた規制の変化などが長期的な企業価値に対して影響してきます。色々な事態に企業が対応していけるのかということは、将来の企業価値を考える上で大変重要です。そういう意味で、ESGの取り組みは、非常に重要性が高いと考えています。

野崎 当社は有害なガスをもとにして肥料を製造するために設立された住友肥料製造所が始まりです。このためビジネスを通じて社会課題を解決することに、トップがずっとコミットしてきた。いわば企業文化に植え付けられているので、当社はESGやSDGsの考え方には馴染みやすいところがあります。

近江 化学企業は環境に負荷を与える業界であることを考えると、御社のようにSDGsなどに前向きな姿勢は今後も求められると思います。Sumika SustainableSolutions (SSS)など、積極的に取り組まれていますね。

上田 はい。SSSは環境負荷低減に寄与する製品を社内で認定する制度で、現在は44の製品・技術が認定されています。

近江 最近では御社はサステナビリティ推進委員会を立ち上げられましたが、この委員会は何を目指すのでしょうか。

新沼 各部門がサステナビリティに取り組んできましたが、企業のサステナビリティが問われる今、当社全体を俯瞰する組織が必要であることから設置されました。社内外からの指摘をきちんと吸い上げ、今後の対策の取り方など会社をあげて検討したいと考えています。

野崎 今後は、委員会での議論も開示していきたいと思っています。

近江 ぜひ、お願いいたします。

化学産業の環境課題と責任

野崎 私たちなりには努力しているわけですが、投資家から見て、当社や化学産業のどういう点に注目されているのでしょうか。

近江 化学産業は環境の側面から考えると、事業機会がたくさんあると同時に、大きな負荷を与える可能性もあると思っています。そういう意味では、環境対応や責任のある管理が注目される産業でもあります。例えば御社が扱う農薬は、一般的には高リスク事業として捉えられていますよね。

上田 そうですね。だからこそ農薬ビジネスについては、さまざまな取り組みをしています。私たちは国内では唯一、農薬の安全性研究に特化した独立組織を持っており、自社内で製品の環境リスクを正しく評価し、それを社会に対してきちんと説明しています。

近江 御社がリスク管理をしっかり行っているのは、全くその通りだと思います。一方、もっと長期的な目線ではいかがでしょう。例えばESGのE(環境)で言うと、低炭素社会の到来に備えてどのように取り組んでおられますか。

上田 パリ協定で掲げられた目標に対し、この技術さえあれば達成できるというものは、まだどこにも存在しません。多くの企業・機関が膨大な研究開発を同時に進め、「何としても2050年に80%の削減を達成するんだ」と努力している状況であり、当社もその一つです。当社の今後の研究開発は、温暖化対策、環境対策を主軸に進めていこうと考えています。

近江 それは素晴らしいですね。今は各社が地球を持続させるための研究開発に対し長期的な投資を行っている状況です。すぐにリターンが得られるわけではないですが、そこに解を探していくことは、最終的に地球と企業の双方にとって大きな価値になると思います。

情報開示と長期目標

野崎 色々と取り組んではいるのですが、外部から見たときにはどのような点が不足しているのでしょうか。

近江 御社がたくさん取り組んでいることはよくわかるのですが、もう少し具体的に「見える化」をしてはどうでしょうか。先ほどお話しいただいた農薬の安全性管理の方法など、もっと積極的に開示すればさらに御社の評価が高まる取り組みがたくさんあるように思います。日本企業はサステナビリティに取り組むことは当たり前で、わざわざ言う必要はないと考えがちですが、会社にとって大事だと思うところはぜひ「見える化」をしていただくと、私たち外部の人間にとっても有用です。特に化学物質の管理や高懸念物質の今後の取り扱い方なども、化学メーカーを評価する際には重要になってきます。

上田 取り組むことは当たり前でも、開示しないと評価には繋がらないですね。

近江 その通りです。

新沼 確かに、先日、SDGsの推進に力を入れていることを政府にアピールしたところ、SDGsアワードで外務大臣賞をいただきました。今までは黙っていてもきちんと評価されるという雰囲気がありましたが、今は積極的なPRが重要であることがよくわかりましたね。

近江 まさにそうですね。また、取り組みを開示するだけでなく、そういったサステナビリティの取り組みに関するKPIが経営戦略の中で示されるべきだと思います。例えば「イノベーション」が中期経営計画のテーマであるならば、ダイバーシティの比率が中期経営計画の目標に組み込まれていると、ダイバーシティを促進することによってイノベーションを促していくんだという企業の意志が見えます。サステナビリティという形のないものを、しっかりKPIとして達成度を振り返る指標を持つことで、社外から評価されやすくなります。欧州ではESG投資が盛んですが、企業を評価する上で測るものがないと投資に繋がりません。

野崎 開示することと、それに対する長期目標を持つ、ということですね。

近江 そういうことです。

持続的成長に向けたガバナンス改革

近江 御社のガバナンスの面では、取締役会の多様性に少し欠けるかと思います。

新沼 女性や外国人は執行役員クラスにはいるのですが、ご指摘の通り取締役会の多様性についてはまだ課題があります。この点については努力をしているところです※(取締役会の多様化に向けた取り組みの詳細はP83・85を参照)。

近江 役員報酬にも改善の余地があるかと思います。御社は長期の取り組みの成果がどのように反映されているのかわかりにくいのが現状です。サステナビリティ指標を、年度報酬の中で考慮するような取り組みがあってもいいのではないでしょうか。

新沼 まさに今、社内で議論中です。基本報酬も長期的な指標に基づいて可変性を持たせようと報酬委員会で話し合っているところです。

近江 なるほど。日本の企業は環境にはしっかり取り組んでいるところが多いのですが、ガバナンスになると取締役会のモニタリングの弱さやダイバーシティ推進の遅れなどが目立ち、グローバルで比較したときにどうしても劣ります。役員報酬についても、スキームの透明性が低いせいで、評価が低くなりがちです。報酬に結び付く仕組みをはっきり打ち出すことが重要だろうと思います。

新沼 はい。当社も完璧ではありませんが、何歩か前進できそうです。

近江 今後は新たな施策が色々と出てきそうですね。御社にはガバナンス面でもぜひ頑張っていただきたいです。

野崎 やはり開示が大事なんだと改めて感じました。やってはいるけど開示していないがために、当社を低く評価しているESG評価機関もあります。それを今後、解消していこうとしています。近江さんから色々とご指摘をいただいたので、それも含めてさらに前へ進んでいきたいと思います。


アムンディ・ジャパン株式会社 近江 静子氏 プロフィール

1991年国際基督教大学大学院比較文化研究科修了。同年エス・ジー・ウォーバーグ証券入社。
リーマン・ブラザーズ証券、クレディ・スイス信託銀行を経て2003年にソシエテ ジェネラルアセット マネジメント(現アムンディ・ジャパン)に入社。企業調査アナリストとして化学・繊維・石油・自動車・機械などの調査に携わる。2008年9月より投資調査部長、2015年4月よりESGリサーチ部長。環境省「持続可能性を巡る課題を考慮した投資に関する検討会」委員、「環境情報開示基盤整備事業」WG委員などを務める。