技術誌 住友化学

2008年度

住友化学 2008-Ⅱ(2008年11月28日発行)

住友化学(株)が開発したプルート®MCは、冬期散布処理(1月~3月)で茶のクワシロカイガラムシ防除を可能にするという新しいコンセプトの殺虫剤である。本剤は散布におけるドリフト問題を軽減するため、9%のピリプロキシフェンを含有するマイクロカプセル製剤となっている。本剤の施用時期と効果の関係を種々検討した結果、冬期散布処理で長期にわたる高い防除効果を示すと同時に、蚕毒リスクを大幅に軽減することを実現した。本剤はIPM(総合病害虫防除管理)プログラムに適応する性能を有しているだけでなく、更に茶栽培者の労力を大幅に軽減することも実現している。本稿ではプルート®MCについて、そのカイガラムシに対する基本性能、製剤設計、および施用時期と効力の関係について報告する。
(page 4~13 by 諫山 真二,津田 尚己)

我々は、重金属を含まない環境調和型触媒である有機分子触媒に着目し、医薬化学品の効率的な合成法へ応用展開を図っている。今回、安価で環境にもやさしいL-プロリンを有機分子触媒として用いた直接的不斉交差アルドール反応を鍵反応に利用することにより、抗エイズ薬の共通中間体(3R,3aS,6aR)- ヘキサヒドロフロ[2,3-b]フラン-3-オール(略称:BFOL)の実用的な製造法を開発したので紹介する。
(page 14~22 by 池本 哲哉,渡邉 要介)

遷移金属錯体触媒で制御された芳香族ポリマーの精密合成として、フェノール性モノマーの酸化重合と非対称官能化モノマーのクロスカップリング重合について、著者らの研究を主に紹介する。酸化重合はクリーンな合成法として見直され、フェノール類のラジカル制御酸化重合やナフトール類の不斉酸化カップリング重合が見出され、位置選択性や立体選択性が制御可能になった。熊田・玉尾型や鈴木・宮浦型のクロスカップリング重合については、Head-to-Tail 選択性が制御されるだけではなく、触媒移動重合により逐次型から連鎖型に変換できるようになった。
(page 23~38 by 東村 秀之,窪田 雅明,大内 一栄,福島 大介,田中 健太)

粉末法X線回折データから結晶構造解析する研究が盛んになり、結晶学にとどまらず材料関連の雑誌にも多数報告されるようになってきた。しかし、粉末X線回折法による結晶構造解析は、単結晶X線回折法と比較して本質的に反射が重なるために結晶構造の決定は難しい。本稿では粉末X線回折法によるBicalutamideの結晶多形form-Iとform-IIの結晶構造解析において、リートベルト法と密度汎関数法(DFT法)による構造最適化を併用した構造モデルの検討を紹介する。
(page 39~47 by 乾 昌路,上田 正史)

一般的に合成高分子は分子量分布が広く、そのまま質量分析法で解析する事は困難である。しかし、試料中に存在する低分子量成分(~1万程度)に着目し解析すれば、繰り返し構造等の情報を得ることもできるはずである。本稿では、汎用の四重極型質量分析計を用いたSEC/ESIMS法による解析方法、解析事例、問題点について述べる。
(page 48~56 by 土田 好進,山本 恵子,山田 公美)

住友化学(株)では、体感教育の一コースとして2007年1月から新たにFE体感研修を開講した。この研修は、工場の安全・安定操業および研究開発業務での安全確保を達成する為に、各部門の核となる技術者の保安防災に関する知識および感受性の向上を目的としている。カリキュラムに体感実習を組み込んだ集合研修を通して、受講者は、危険性を体感する経験に裏打ちされた確実かつ実践的な保安防災に関する知識を体得することが可能となる。本稿では、当社での体感教育による安全確保への取り組みについて紹介する。
(page 57~63 by 丸野 忍)

住友化学 2008-Ⅰ(2008年5月30日発行)

大きな発展を遂げている携帯電話を始めとするワイヤレス通信機器のフロントエンド部においては、GHz帯の超高速通信の信号の入出力を担うため、高速性能に優れたGaAs系化合物半導体デバイスが多用されている。ここではその中で、多バンド/多モード通信の入出力切り替え用途に需要が伸長しているp- HEMTスイッチICについてその要求特性と、その製造に用いられるMOCVD法エピタキシャル基板の設計・製造技術について概説する。
(page 4~15 by 秦 雅彦,井上 孝行,福原 昇,中野 強,長田 剛規,秦 淳也,栗田 靖之)

樹脂発泡製品は、樹脂の特性や成形加工プロセスに由来する発泡倍率やセル径・形状などの特徴を活かして、軽量性、柔軟性(緩衝性)、断熱性、吸音性などの機能を有する様々な樹脂加工製品として、食品容器、梱包・包装資材、自動車部品、建築資材など幅広い分野において採用されている。特に自動車分野においては、軽量化や環境に優しいなどの観点からポリプロピレンの発泡成形技術・製品に注目が集まっている。本稿では、ポリプロピレン発泡シート スミセラー®を用いた新しい成形加工技術・製品の開発について紹介するとともに、自動車部品の軽量化ニーズに対する、樹脂発泡技術・製品開発の考え方について述べる。
(page 16~25 by 南部 仁成,広田 知生,魚谷 晃,大村 吉典,坂本 昭宣)

農薬の水圏生態系での環境影響評価は安全性評価における最も重要な分野の1つとなってきている。住友化学(株)は、食の安全・安心を旨とし、食糧の安定生産を目的として様々な農薬を開発・上市しており、その一環として常に最先端の技術を駆使した環境生物に対する安全性評価を行っている。本稿では、日本、米国、欧州(EU)における水圏生態系に対する農薬の環境影響評価手法について概説した上で、実環境を模した非常に精緻な系を駆使して当社農薬の環境生物に対する安全性を示すことができた最近の具体事例を紹介する。
(page 26~40 by 宮本 貢,田中 仁詞,片木 敏行)

近年、装置の高感度化とコリジョン・リアクションセル技術の進歩によってICP-MSの普及には目覚しいものがある。しかしながら、気体試料の直接分析は、プラズマの維持が困難なため未だに不可能である。我々は、気体試料中に含まれる粒子状物質をアルゴン中に移動するガス交換器を開発し、気体試料の直接分析を可能とした。そこで、PFAチューブを用いて屋外大気を直接導入しながら、8分毎に80時間にわたって20元素の信号強度を連続測定し、環境大気中の粒子状物質のリアルタイム多元素モニタリングを試みた。その結果、瞬間瞬間のBe, Ag, Cd, Sn, Sb, Tl, Pb, Bi, Th, Uの信号強度を高い検出感度で得ることが出来た。
(page 41~49 by 西口 講平,宇谷 啓介)

PCBはその高い毒性により1973年に製造・輸入が禁止されたが、2003年に、現在使用されている一部の重電機器中の絶縁油が微量のPCBで汚染されている可能性が判明した。これら汚染が疑われる重電機器は、数百万台に達すると推定されたが、その適正な処理のためには機器中の絶縁油に含まれるPCB濃度を迅速・安価に測定する技術が急務となった。本報告では、これら社会的要望に応えるべく当社が新たに開発したイムノアッセイによるPCBのスクリーニング測定法について述べる。
(page 50~57 by 今西 克也)

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